【立田敦子のカンヌ映画祭2024 #08】パルムドールはショーン・ベイカー『Anora』に!
第77回カンヌ国際映画祭のクロージングセレモニーと授賞式がフランス現地時間の5月25日(土)夜に開催され、22作品が上映されたコンペティション部門の審査結果が発表されました。
コンペティション部門の審査員団は、審査員長のグレタ・ガーウィグ(監督・脚本家・俳優/アメリカ)を筆頭に、是枝裕和(監督/日本)、エブル・ジェイラン(脚本家・写真家/トルコ)、リリー・グラッドストーン(俳優/アメリカ)、エヴァ・グリーン(俳優/フランス)、ナディーン・ラバキー(監督・脚本家/レバノン)、J・A・バヨナ(監督・脚本家・プロデューサー/スペイン)、ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ(俳優/イタリア)、オマール・シー(俳優・プロデューサー/フランス)の9名。
審査員&プレゼンターより、脚本賞から順に受賞作あるいは受賞者が発表され、グランプリ作品の発表後に、ジョージ・ルーカス監督・プロデューサーの名誉パルムドール賞の授与式を挟んで、いよいよ最高賞のパルムドール賞の発表が行われた。
クロージングセレモニーに登場した、審査員長のグレタ・ガーウィグ。
最高賞のパルムドールを受賞したのは、アメリカのショーン・ベイカー監督の『Anora』。ブルックリンに住むセックスワーカーの主人公アノラは、ロシアの富豪の息子と恋に落ち、ラスベガスで電撃結婚するが、彼女の経歴を知った彼の両親があの手この手を使って離婚させようとやっきになる、というコメディ。よく練られたウィットに富んだセリフや演出力が、上映直後から批評家たちの間でも概ね高い評価を得ていた。また、軽やかなジャンル映画でもありながら、性産業に働く人々を人間的な視点で描くというアプローチは、これまでの同監督の作品に通底していて、弱者への眼差しや寄り添い方にも人間味が感じられた。予算を削ろうとiphoneで撮影した『タンジェリン』(2015年)、アカデミー賞助演男優賞にウィレム・デフォーがノミネートされた『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(17年)などで知られるベイカー監督だが、前作『レッド・ロケット』(21年)に続きカンヌ映画祭コンペティション部門への2度目の選出で、見事、最高賞のパルムドールを受賞した。 グランプリは、インドの女性監督パヤル・カパーリヤーの『All We Imagine as Light』。女性看護師たちのリアルな日常や恋愛を描いた本作は、ジャンル映画が多かった今年のコンペティション部門では数少ない"ほっとする"素直な青春映画。 政治的な側面から注目度の高かったイランのモハマド・ラスロフ監督の『The Seed of the Sacred Fig』は、従来の賞にはないが特別に設けられた【特別賞】を受賞。世界情勢から映画祭で上映される映画も政治的な作品が多く見受けられるが、自由を求めて体制と闘い続けるラスロフ監督の姿勢は多くの映画人から尊敬と賛同を得ているが、そういった要素は作品の評価にどのように影響するのか審査員団に聞いてみたい気もする。 先にも記したようにジャンルテイストの多かったコンペの中でも異才を放っていた『The Substance』は脚本賞に落ち着いた。コラリー・ファルジャはアクション映画『REVENGE リベンジ』(17年)で知られるフランスの女性監督だが、本作では美と若さに執着するセレブリティが、地下組織から"自分自身のいいバージョン"を作り出す薬を得たことによる顛末を描くホラーコメディ。スプラッター要素も多いが、主人公エリザベス役のデミ・ムーアが"すべてをさらけ出す"以上の衝撃の演技を見せ話題となった。 以下は、コンペティション部門の受賞リストです。 【パルムドール】 『Anora』ショーン・ベイカー監督(アメリカ)