「8月9日」ロゴマークのブランド設立、被爆3世「ファッションとして平和を羽織って」若い世代巻き込む
今年は戦後80年。原爆の投下や空襲など悲惨な歴史を経験した長崎で育まれ、息づいてきた平和と文化の取り組みを紹介する。 【写真】新ブランドを設立した思いを語る安永さん
「被爆者や特定の誰かが平和を背負うのはもう終わり」
ポップで親しみやすいカレンダー時計のイラストが8月9日午前11時2分、長崎原爆のさく裂時刻を示す。長崎から平和を発信しようと新設されたファッションブランド「August Nine(オーガストナイン)」のロゴマークだ。
ブランドを設立した長崎県諫早市の会社員、安永年軌さん(34)は「被爆から80年が経過する中で8月9日が次第に忘れられようとしている。日常の中で、原爆や平和を考えるきっかけになってほしい」と思いを込めた。
母方の祖父が被爆者の被爆3世。しかし、以前は原爆への関心は低く、被爆者らが取り組んできた核兵器廃絶の運動も「自分には関係ない」と考えていた。
22歳の時、友人の誘いで十数年ぶりに長崎市の長崎原爆資料館に行った。ガイドをしてくれた入市被爆者の男性が、涙をこらえながら体験を話す姿に「思い出すのもつらい記憶を被爆者が話してくれるのは当たり前のことじゃない」とはっとさせられた。「少しでも被爆者が笑って過ごせるように」。そう願って平和活動に関わり始めた。
10年前から仕事の傍ら、被爆遺構のガイドをしたり、平和を考えるイベントを開催したりしてきた。2021年には長崎市の「平和の新しい伝え方」事業の一環で、友人のデザイナーと一緒に平和祈念像のイラストに「PEACE」の文字を添えたTシャツの製作を始めた。
「座り込みや署名など、これまでの平和活動は参加のハードルが高かった。生活の中でTシャツを着るだけで平和へのアクションになるなら、働く若い世代なども巻き込めるはず」。インスタグラムなどを通して売り始め、これまでに約700枚を販売した。
新ブランドは勤務先の副業制度を利用し、昨年10月、個人事業として始めた。休日の空き時間などで平和活動を行う中で、「ビジネスとして長崎の平和という大きな資源を使って収益を得ることで、現役世代でも継続的に活動に取り組める。まずはそんな仕組みを作りたい」と考えたからだ。