「3つのDがぼくのゴルフを支えている」ワトソンを支える精神的な“3本柱”とは ?【 “新帝王”の60歳を振り返る #6 】
ラフに強いアプローチの秘訣
次にワトソンのアプローチの特質について分析してみたい。 「100ヤード以内なら世界一」と帝王二クラスをしていわしめた往年の青木功。七色の球を操るといわれたリー・トレビノ。彼らのアプローチは職人芸の匂いが濃厚だったが、ワトソンに職人技の匂いはしない。名手でありながらいかにも…という感じがしないのはなぜだろう? それは一見、無造作に素早くやるからだということもあるだろうが、スウィングの質に負うことが大きいと思う。クラブをストレートに上げてストレートに振り下ろすアップライトスウィング。 どのような状況でも同じスウィングテンポで、フェースの面とボールに与える力を中心としてアプローチする。コッキングがまた素晴らしい。手元はそれほど動いていないのに、ヘッドは大きく動く。そしてどんなに小さいスウィングでも多少のコッキングは必要。これが正しいコッキングの考え方である。アマにはなかなかできないのが小さいトップでの収まりのよさ。これは正しいコッキングをしないと作れない。アマに多いノーコックの大きい動きでは打つときにゆるむことが多く、スピンのきいた球は打つことは不可能。 ワトソンは距離に対してイメージした位置までコンパクトにヘッドを上げて、しっかりボールを叩ける体勢をつくる(ノーコックの大きいトップはこれができない)。インパクト後も左手首がまっすぐ目標方向に出ていく。だからフィニッシュでもフェースはスクエアのままである。 また右ひざはインパクトで送り込まれていくものの、スウィング軸をつくっている左ひざは決して左へ流れていかない。つまり、アドレスであらかじめ左ひざを左へ出していき、固定しておくことでスウィング中の体の上下動、左右の動きを排除している。これなどはアマでも簡単に実践できることであろう。 小さな動きでインパクトのゆるまないアプローチ。だからこそリンクスの深いラフからでもしっかりしたアプローチができるのである。 今や伝説となった82年の全米オープン、ペブルビーチ17番パー3 。ワトソンはティーショットをグリーン右の足首までかくれるラフに外した。誰もがボギー、ダボを予想した。しかし、ワトソンは前出のキャディのブルースに何事かささやき、打たれたボールはスルスルとカップイン ! このバーディで宿敵ニクラスを突き放し、勝利したのである。 ワトソンがブルースにささやいた言葉は「寄せるんじゃない、入れるんだ」。 記者会見でも「ブルースは無理せず出そうといったんだが、あのときは入る予感がした。本当に入ると信じたんだ」。 生真面目で大仰なことなどいわないワトソンが放った奇跡のアプローチショットと「言葉」だった。 奇跡のカップインを演じたアプローチも、コッキングの利いたインパクトのゆるまないスウィングだからできたのであり、これらの動きはメカニカルでありシンプル。これがワトソンのアプローチを職人技くさくなくしている要因なのだろう。 見事な職人技なら素人であるアマにはとてもできる技じゃないと思うのだが、メカニカルな技術だと何だかできそうな思いがするから不思議である。 ゴルフダイジェスト特別編集委員/古川正則
みんゴル取材班
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