それほど大きな問題ではない? 「iDeCo改悪」によって影響を受ける人、逆にメリットがある人とは
3. 受取り時のルールの一部変更
最後は退職所得控除のルールの一部変更です。iDeCoは掛金を拠出している間は受取りできませんが、60歳の年齢要件を満たせば、75歳までの間で好きなときに受取りが可能です。その際、一時金で受け取る場合は退職所得控除が、分割で受け取る場合は公的年金等控除が適用になります。 退職所得控除とは、定年退職時に会社から退職金を受け取る際に、長期就労のご褒美だからと税金がとても優遇される仕組みです。勤続年数20年までは1年あたり40万円、20年を超えると1年あたり70万円で計算した金額を退職金から控除してくれます。つまり勤続30年であれば1500万円、40年であれば2200万円までの退職金は非課税で受け取れるのです。さらに控除額を上回るほどの退職金の場合は、超過分が2分の1され、そこに分離課税、その他の所得とは切り離して税率を掛ける特別ルールが適用されています。 iDeCoは任意の私的年金でありながら退職金の一種である企業型確定拠出年金(DC)としての普及が進んだことから、受取りの際はその加入年数を勤続年数と読み替えて退職所得控除を計算することになっています。 ただし、iDeCoを60歳の定年退職時に退職金と同年に受け取る場合は合算され、退職所得控除もその重複する期間はカウントしないというのがルールです。 例えば、会社は30歳から60歳までの30年間働き1000万円の退職金、iDeCoは40歳から60歳まで加入し受取額は800万円であったとしましょう。どちらも60歳で受取る場合は、金額は合算され1800万円となります。また、退職所得控除は30年分の1500万円となり超過した300万円の2分の1、つまり150万円に対し5%の所得税、10%の住民税がかかります。なぜ退職所得控除が30年分になるかというと、iDeCoの加入期間20年は、会社での勤続年数である30年と重複するためです。結果的に1800万円の受取りから225000円の税金が引かれ、手取りは17775000円となるのです。 では、もし会社が65歳定年で退職金の1000万円は65歳で受取りiDeCoの800万円は60歳で受け取れることになったとしましょう。すると退職所得控除には通称「5年ルール」というものがありiDeCo受取り後に5年を経過した後で退職金を受け取ると、さきほどの「重複期間」という概念がなくなりそれぞれの退職所得控除を活かせることなります。 するとiDeCoの800万円を受け取る際は20年の加入期間、つまり退職所得控除800万円が適用となり税金は0円、会社の退職金1000万円は退職所得控除1500万円(分りやすくするため勤続年数は30年のままとします)が適用され税金は0円です。つまり、iDeCoと退職金の受取り時期を5年ずらすことで退職所得控除をダブルで使うことができて「得する」ことが可能だったのです。 しかし今回の改正でこの5年ルールを10年ルールにすると明示されたので巷では「改悪だ!」といわれているのです。 筆者は、会社の定年は60歳だという方がまだまだ多い中、この5年ルールを器用に使える方は、ごく一部であることを考えるとそれほど大きな問題ではないのではないかと考えています。むしろ今回の改正で退職所得控除を計算する際の1年あたりの金額が縮小されるのではないかと思っていたので、胸をなで下ろしたくらいです。とはいえ、度重なる変更は制度の信頼性を揺るがすことにもなるので、掛金の上限を上げたら受取り時を引き締めトレードオフするようなことは、やめて欲しいとは思います。