BMW R1300GSアドベンチャーをイギリス人レーサーが斬る「30Lタンクの巨体で攻めの走りができる…そのシャシーと電子制御に驚愕だ」
2024年9月に日本でも受注が開始され、早速BMWファンを中心に大人気となっているというBMW R1300GSアドベンチャー。 R1300GSをベースに30Lの大型燃料タンクを備え、前後足まわりを強化──まさに巨艦ともいえる姿のR1300GSアドベンチャーだが、その走りはどのような世界なのだろうか。 【画像12点】30L燃料タンクで航続距離600km超!? BMW R1300GSアドベンチャーを写真で解説 そのR1300GSアドベンチャーの国際試乗会に、イギリスのモーターサイクルジャーナリストで、マン島TT参戦経験もあるレーシングライダーのアダム・チャイルド氏が参加。試乗前はその大きさにプレッシャーを感じたというが、ワインディングを攻め、オフロードではテールスライドを楽しんだとか。 人気のニューモデルを試乗して的確にレビューする、アダム氏のR1300GSアドベンチャー試乗レポートを紹介しよう。
デザインが物議を呼んだBMW R1300GSアドベンチャー、だが実物はかなりカッコいい
BMWはR1300GSを発売してからわずか1年で、R1300GSアドベンチャーを発表したが、もはや驚くほどのことではないだろう。ご存知のとおり、BMWの最新GSアドベンチャーは、30リットルの大型燃料タンクによって、どこにでも行けて、何でもできる究極のGSだ。 インターネットのアドベンチャーバイクコミュニティでも話題になった独特の外観とスタイリングをいったん脇へ置いておくと、R1300GSアドベンチャーは「大型燃料タンクを装備するGS」というこれまでの枠に収まらない別個のニューモデルだ。 メインフレームこそR1300GSと同一だが、完全新設計のサブフレームによって積載量が増え、ライダーとパッセンジャーのために広いスペースが確保されている。大型燃料タンクや耐候性、衝突保護性強化などによる重量増加に対して、前後サスペンションストロークの延長(フロント210mm、リヤ220mm)のほか、ホイールベースも14mm長い1534mmとして最適化を図っている。 そして一番のトピックは、クラッチ操作を不要とするBMW初の自動変速機構『オートメイテッド・シフト・アシスタント(ASA)』を採用したことだろう。 そのR1300GSアドベンチャーの国際試乗会で、BMWは従来どおりのマニュアルトランスミッションとASAの2種類を用意し、スペイン南部のオンロードとオフロードを2日間でめぐるツアーを提供してくれた。 試乗レポートへ入る前に、まずはR1300GSアドベンチャーの外観に触れておきたい。BMWが初めてその姿を公開したとき、インターネットはちょっとした混乱に陥った。独特で箱型のデザインに全世界、いや地球が──宇宙全体が憤慨したのだ。 BMWはスタンダードのGSとアドベンチャーを明確に区別したかったのだろう。その意図はたしかに当たっていて、私たちはこれらを混同することはできない。アドベンチャーは独立した存在だ。スマートフォンやタブレット、パソコンの画面でR1300GSアドベンチャーのスタイルを見た全宇宙の人々と同じように、私も不安を抱いていた。 しかし実車を目の当たりにすると、それが大袈裟だったことに気づいた。他メーカーのアドベンチャーと比べてもまったく異なる存在感を放っているが、考えてみればR1200GSに始まった左右非対称の異径2眼ヘッドライトもそうだったし、独創的なスタイルとディテールを持つバイクを生み出すことは、BMWにとって当たり前の事実なのだ。 とはいうものの、目の前にあるR1300GSアドベンチャーは威圧的なほどに大きい。参考までに私の身長は170cmに届かないくらいで、BMWの担当者はローシートを希望するかを尋ねてきた。私はそれを丁重に断り、スタンダードR1300GSGSよりも20mm高い、870/890mmの標準シート(セット位置によって高さが選べる)でテストに臨むことにした。ただし、アダプティブ車高制御が作動すると、バイクが停止したときにはシート高が30mm下がるから、標準シートでも840/860mmになる。 ちなみに、アダプティブ車高制御には、スタンダードとコンフォートの2種類がある。ツーリング仕様の車両にはアダプティブ車高制御コンフォートが装着され、トロフィー仕様に装着されるスタンダードよりも20mmシート高(サスペンション長)が低くなる。このため、アダプティブ車高制御コンフォート車にローシートを装着すれば、790/810mmまで下げることができる。 しかし、シート高を下げることはできても、R1300GSアドベンチャーを小さくすることはできない。実際のところ、私はテストのほとんどをシート高が895/915mmになるエンデューロシートを装着したトロフィー仕様で行った。この車両には純正アクセサリーのラジエターカバーバッグを装備していたから、またがったときの威圧感はかなりのものだった。 バイクを直立させた状態では、私はつま先立ちになるが、自信を持って乗れるほどに安定している。片足立ちにすれば、ステップに置いた足でリヤブレーキペダルやシフトペダルをしっかりと操作できる。なお、シート高870mmの標準シートでアダプティブ車高調整が有効になれば、数値は840mmになる。カカトはやや浮くくらいまで足が着く。 2日間のテストでは、2台のR1300GSアドベンチャーが用意されていた。まず1台はトロフィー(GSスポーツ)仕様で、従来どおりのマニュアルのギヤボックスを搭載し、スポーツスクリーン、ガード類、ラリーシート(895/915mm)、エンデューロパッケージ、アルミ鍛造ホイール、デュアルチタンマフラーなどを装備した、スポーティな仕様だ。 もう1台は、ダイナミックパッケージとツーリングパッケージを装備し、アダプティブ車高制御コンフォートと、クラッチ不要のオートメイテッドシフトアシスタント(ASA)を装備した仕様だ。タイヤはどちらにもオフロード走行を重視したメッツラー製カルー4が装着されていた。 スタンダードのR1300GS同様、スクリーンは電動調節可能で、クルーズコントロールやDSA(ダイナミック・サスペンション・アジャストメント=電子制御サスペンション)が標準装備されている。なお、GSアドベンチャーには手動調整式サスペンションの設定はない。そのほかに4種のライディングモードをはじめとする多数のライダーアシスト機能がある。問題は、アクセサリーパックでいくつのボックスにチェックを入れるかどうかだ。 たとえば、ライディングモードは標準の『エコ』、『ロード』、『エンデューロ』、『レイン』の4種に加えて、『ダイナミック』、『ダイナミック プロ』、『エンデューロ プロ』を追加した計7種にまで拡張できる(*)。ほぼシームレスなシフトアップ/ダウンを可能にするギアシフトアシスタントプロは標準であるべき装備のひとつだ(*)。 レーンチェンジ・ウォーニングとリアエンド・コリジョン・ウォーニング(RECW)を組み込んだ、とても巧妙で使いやすいダイナミッククルーズコントロール(DCC)を選択することもできる(*)。さらにハードケースやソフトバッグ類をはじめとするアクセサリーとパーツが無限のように揃う。 *いずれも日本仕様では標準装備となる