駆け出し記者の非礼にダンディーな対応してくれた北の富士さん
【取材の裏側 現場ノート】元横綱で相撲解説者の北の富士勝昭さんが死去した。82歳だった。 現役時代は土俵上の活躍はもちろんのこと、長身で甘いマスクとあって人気は高かった。日本相撲協会は1998年1月に退職したが、NHK大相撲中継の解説者となり、軽妙で歯にきぬ着せぬ語り口で評判を得た。現役引退後は、親方として長く審判部長を務めた。協会の重職を務めた一方で、中日新聞グループで長く評論を行っていた。 取組終了後、報道陣が親方の話を聞こうと審判部室を訪れると、ペンを手に自ら原稿用紙に執筆する姿があった。びしっとした和服で筆を執る親方は、〝昭和の文豪〟といった体だった。 そうした中、駆け出しの記者は一刻も早くコメントを取ろうと焦りまくり、執筆中の親方に「お話をうかがえませんか」と声をかけた。すると、当時の九重親方は「君、私が何をしているか、わかるだろう。書き終わるまで待っていなさい」などと言って、筆を止めなかった。 今から30年以上、前の話。当時はこうした状況だと親方衆から怒鳴られるのがオチだったが、九重親方は記者の非礼にも怒ることなく、軽くあしらってくれた。もちろん原稿を書き終えた後、親方は審判部長としてコメントしてくれたのは言うまでもない。 世間が抱くダンディーなイメージそのままの北の富士さん。駆け出しの記者相手でもそれは変わらない、すてきなおじさんだった。合掌。 (元大相撲担当・初山潤一)
初山潤一