日銀の政策金利見通しと物価見通しが整合的でないことの危うさ
日本銀行は物価目標の達成が見通せる状況と宣言
日本銀行は3月19日にマイナス金利政策を解除し、17年ぶりに利上げを行った。とはいえ、金融政策の正常化はまだ緒に就いたばかりだ。この先、正常化を円滑に進めていくためには、金融市場と丁寧な対話を行い、金融市場の期待を上手くコントロールしていくことが欠かせない。 日本銀行は、マイナス金利政策を解除し、異次元緩和との決別を高らかに謳った際に、「2%の物価安定の目標が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至った」として、物価目標の達成を宣言した。日本銀行は、物価目標の達成がマイナス金利政策解除を含む金融政策正常化の前提条件であることを、今まで強調してきた。 しかし一方で、「基調的な物価上昇率はなお2%を下回っている」、中長期の予想物価上昇率(期待インフレ率)についても、「まだ2%に向けて高まっている途上」と説明している。中長期の予想物価上昇率(インフレ期待)は、実際の物価上昇率の先行指標と位置付けることができる。物価上昇率は、予想される水準へと遅れて収斂していく傾向があるからだ。 金融政策はフォワードルッキング(先行きを見据えた判断)に運営されるのが通例だ。政策効果の発現には時間差が生じるため、現時点で物価目標が完全に達成されていなくても、近い将来に達成の可能性が高いと判断されれば、政策修正に着手するのは正しい判断だ。
「見切り発車」の面も
しかし、先行指標の予想物価上昇率でさえなお2%に達していない、と日本銀行が判断していることを踏まえれば、「物価目標の達成が見通せる状況」といっても、かなり不確実性が高い状況であることは、日本銀行も認識しているのではないか。その意味で、2%の物価目標達成を前提とする今回の政策転換は、「見切り発車」の面があることは否めない。 足もとで物価上昇率が大きく上振れていることを踏まえれば、2%の物価目標達成にこだわることなく、政策修正を実施すべき環境である。ただし、「(2%の)物価目標の達成が見通せる状況」と宣言した上でマイナス金利政策を解除したことは、この先、日本銀行の正常化過程で、金融市場の期待をコントロールすることを難しくしてしまうことになるのではないか。