日銀の政策金利見通しと物価見通しが整合的でないことの危うさ
日本銀行の政策金利と物価の見通しは整合的でないという危うさ
日本銀行は、経済、物価情勢が依然として弱いことから「当面、緩和的な金融環境が継続する」としている。ただし、日本銀行が展望レポートで示しているのは経済・物価見通しのみであり、米連邦公開市場委員会(FOMC)が公表する経済見通しのように、政策金利見通し(いわゆるドットチャート)は示していない。 他方で日本銀行は、金融市場での金利見通しのコンセンサスを前提にして、先行きの経済・物価見通しを作成している、と説明している。確かに金融市場は、政策金利は当面低水準を維持し、先行きの上昇は緩やかなペースにとどまると想定している(図表3)。
しかしそれは、日本銀行が示すような2%程度の物価上昇率が先行き続くという見通しに基づいているのではなく、それよりも低い物価上昇率見通しを前提としているのである(図表4、図表5)。仮に日本銀行の物価見通しを前提とすれば、より急速に政策金利が上昇する見通しとなるだろう。
日本銀行は、金融市場が予想するように政策金利が当面低水準を維持することによって、経済が下支えされ予想物価上昇率が押し上げられていくため、物価上昇率は先行き2%程度で安定する、との見通しを示している。日本銀行は金融市場の見通しをいわば「いいとこどり」して、2%の物価目標達成と低金利持続が両立するという、都合の良いシナリオを作っているのである。ここには、日本銀行が正常化策を進めていくうえで、大きなリスクがあるのではないか。 先行き、日本銀行が示す物価上昇率見通しを金融市場が受け入れていけば、金利見通しが大きく引き上げられる形で、両者のギャップが埋められる。この場合には、先述のような金融市場混乱リスクが生じるだろう。 他方、先行き、物価上昇率が2%を下回る水準まで低下していけば、日本銀行が示す物価上昇率見通しが下方修正されていく形で、両者のギャップが埋められることになる。この場合には、日本銀行は2%の物価目標達成宣言が拙速であったとの批判が高まり、さらなる正常化の制約となる可能性がある。 金融政策の正常化は緒に就いたばかりであり、正常化完了までにはなお長い道のりがある。正常化を円滑に進めるためには、金融市場の期待を上手くコントロールすることが日本銀行に求められるが、その難易度を自ら大きく高めてしまう形で、日本銀行は正常化をスタートさせたのである。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英