日銀の政策金利見通しと物価見通しが整合的でないことの危うさ
市場の期待の変化が正常化の妨げにも
日本銀行は、経済、物価情勢が依然として弱いことから、「当面、緩和的な金融環境が継続する」として、金融市場が短期金利の引き上げなど追加の政策修正への観測を過度に強めないよう、けん制している。 しかしこの説明は、「2%の物価安定の目標が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至った」との説明と矛盾している面があり、この点が、日本銀行がこの先正常化を進めていく際の妨げともなるのではないか(図表1)。
日本銀行が、不確実が高い中にもかかわらず、正式に物価目標達成を宣言したため、金融市場は「当面、緩和的な金融環境が継続する」とした日本銀行の説明を額面通りに受け入れずに、政策金利が2%の物価上昇率と整合的な中立水準、つまり2%を超える水準まで迅速に引き上げられていく、との観測をこの先強めていく可能性があるだろう。実際そうなれば、長期金利の上昇、円高進行、株価下落など金融市場に大きな動揺をもたらしかねない。それは依然として弱い経済への打撃ともなるだろう。 他方で、物価上昇率がこの先2%を下回って緩やかに低下を続ければ、2%の物価目標達成の宣言は拙速であったとの批判を日本銀行は受けるだろう。足もとの賃上げ率は予想以上に上振れたが、それは輸入物価が急騰するという「輸入ショック」の正常化過程と位置付けられ、先行き高い物価上昇率が続くことを必ずしも保証するものではないだろう(図表2)。
やや長い目で見れば、経済情勢が悪化する局面で、金融市場では2%の物価目標達成のために追加緩和が行われるとの観測が浮上する可能性もあり、そうした金融市場の期待の変化は、日本銀行の正常化の妨げともなるだろう。 このようなリスクを覚悟のうえで、今回日本銀行は、「見切り発車」的に物価目標達成を宣言し、マイナス金利政策の解除に踏み切ったのである。それは、物価上昇率と賃金上昇率が一時的にせよかなり上振れ、日本銀行の政策修正を政府や国民の多くが納得しやすいこの時期を逃すことなく、相応の副作用がある異次元緩和の本格的な修正に着手したい、と強く考えたからではないか。 2%の物価目標達成が見通せる状況まで経済環境が改善したことから、マイナス金利政策解除やイールドカーブ・コントロール(YCC)の撤廃、ETFの買い入れ終了など、異次元緩和からの決別を開始できた、というのが日本銀行の公式の説明である。しかし実際には、異次元緩和がもたらす副作用軽減、というリスクマネジメントが主たる狙いなのではないか。