泣き叫ぶ80代の母を老人ホームにひとり残し…「いいえ、心からホッとしました」。50代女性を追い込んだ〈介護の限界〉と〈家族の無理解〉
厚生労働省によると、2021年、要支援・要介護者は約690万人と、その数は年々増えているが、同時に認知症患者も増えている。厳しい介護の実情を探る。 【早見表】年金に頼らず「1人で120歳まで生きる」ための貯蓄額
50代女性、母親を介護施設に入れて
「もう、限界でした…」 固く唇をかみしめてうつむくのは、50代の山田さん(仮名)だ。父に先立たれた80代の母が認知症となり、老人ホームに入居させたという。 山田さんは3人きょうだいで、姉と弟に挟まれた二女。姉は遠方に暮らすため介護が難しく、弟は仕事で多忙のため対応できないという。成り行きで独身の山田さんが母親の面倒を見ることになったのだが、認知症が進行するにつれ、徘徊して近隣住民に送り届けられる、警察に保護されるといったことが増えてきた。 「普通の会社員ではとても介護にかかりきりになれず、姉と弟にSOSを送ったのですが…」 姉や弟の対応は、山田さんの罪悪感をあおるものだった。 「姉は〈お母さんがかわいそう、あなたがしっかりして〉といって私を責め、弟は〈お母さん、どうしてこんなことになったんだろう〉というばかりで…。2人からは〈私のケアが足りない〉という、無言の圧を感じていました」 しかし、山田さんも普通の会社員であり、自身の人生設計もある。 会社の先輩が、山田さんの疲れ果てた様子を見かねて声をかけた。山田さんが状況を打ち明けると、すでに両親を見送ったというその先輩は「何やってるの! あなたが倒れてしまうわよ!」と山田さんを叱責した。 「先輩とケアマネージャーのアドバイスで、母を介護付き有料老人ホームに入居させたのです」 山田さんは心底ほっとしたという。 「寂しかったかどうか? いいえ。そんなことは思いませんでした」 山田さんの母親は、認知症の症状は出ていたが、暴言暴力等はほとんどなかったというが、ホームへの入所のときは、嫌がって声を上げ、泣き叫んでいたという。 しかし、そんな母親の様子を見ても、山田さんの気持ちはほとんど動かなかった。それだけ疲弊していたということだろう。 「しかし、腹が立つのは姉と弟ですよ…」 母親を入所させると決めたときも、入所当日も、姉と弟は顔を見せなかった。しかし、姉はその後、頻繁に山田さんのところに電話をかけてきて「お母さん、かわいそう…」と泣くという。 「あんまり腹が立ったので、この間は途中で電話を切りました」 弟は費用の話を聞いては「お姉ちゃん、大変だよね。僕も払うよ」というものの、いちども払われたことはないという。 「まあ、弟にどうにかしてもらわなくても、母の年金と貯金で大丈夫ですけどね…」