「よそもの」であるが故に気づくこと。NYで活躍する漫画家が表現する、''枠からはみ出た''物語
「Not knowing what to write as your nationality. Gender, Race, or Employment. Just means that you don't have to choose(自分の国籍を書けとか、性別、人種、職業を書けとかいう問いに答えられないのは、そもそもどれかひとつを選びとらなくてもいいってこと)」
取材後記
ハラさんの誠実な言葉の端々からは、社会の現状や日常を注意深く見つめる繊細な眼差しと、楽しさや喜びという感覚を大切にリアリティを捉えようとする、清らかな思いを感じた。その根底にあるのは、自分自身の感情に背を向けずに向き合ってきた経験と、弱者の立場に敏感な感受性であり、そこから感じとる世界を前向きに発展させようとする、とても強い意志なのかもしれない。それは硬直化した社会に心地よい風穴を開けるような、下から上へ流れる流動的で自由な発想であり、文化やアートの本来あるべき姿ではないだろうか。 タジフェルの研究によると、社会的アイデンティティも個人的アイデンティティも、どちらも自己概念を形成する上で重要ではあるが、社会的アイデンティティが顕著なグループはステレオタイプや偏見が生じやすくなるという。しかし、偏見はグループ間の相違を減らすことで緩和できるという結果がでている。例えば、さまざまな性別や人種、民族などの子どもたちが協力して課題に取り組むことで、偏見を減らすことができるそうだ(※2)。 現実的に、そういった環境にすぐにアクセスできないこともあるだろう。だからこそ私たちには物語がある。物語を通じて新しい視点や世界に気づくことができるように、私たちはいつでも変化することができる。そんなことを、ハラさんの作品や言葉から感じた。
※1.2 Social Identity Theory(https://www.sciencedirect.com/topics/psychology/social-identity-theory#:~:text=Whereas%20social%20identity%20refers%20to,people's%20personal%20interests%20and%20values.)