なぜヤクルトは1勝1敗のタイに戻せたのか…冴えた“日本S仕様”の高津采配と高橋133球完封劇の理由
5回まで、毎回、走者を出しながらも粘り強いピッチングであと1本を許さない高橋と、6回一死まで圧巻のパーフェクトピッチングを続けた宮城の投手戦は見応えがあった。 高橋は試合後に「宮城君も凄いピッチングをしていたので、自分が先に降りるものか、と思ってマウンドに立っていました」と、燃えるようなライバル心が支えだったことを明かした。 6回一死から西浦がパーフェクトを阻止する三遊間ヒットをマークすると、それがスイッチになったかのように高橋は、6、7回と三者凡退に抑え、9回までをノーヒット。 「3人で抑えた記憶がない。もう一人ひとりだと思ってバッターに向かって投げていたのでそれで9回まで投げられて良かった」 高橋が無我夢中で全力投球を続けた結果だった。 高橋の何がどう良かったのか。 高代氏は、「ストレートに最後まで力があったことと、カウント負けすることなく緩急と縦の変化が効いた。中村のリードが光った」という分析をした。 中村は高橋の配球をレギュラシーズンと変えていた。133球中、半分以上はストレートだったが、スライダーは2球、カットは3球しか投げなかった。変化球はチェンジアップと抜いたカーブを中心に使い、横の変化を封じて、縦の変化で勝負したのだ。オリックス打線が横の変化には強いが、縦の変化と緩急には弱いと、初戦で分析した中村の好リードに高橋も見事に応えたのである。 高代氏は、「中村は一塁走者へ牽制を投げさせるケースでも外にミットを構えた。セオリーでは内に構えるのだが、そういう細かい駆け引きをしていた」という。 高橋vs宮城の息詰まる投手戦の均衡が破れたのは8回だった。 実は、「こういう投手戦には、記録的な投球をしていた方がひとつのきっかけで崩れる」(高代氏)というプロ野球“あるある“が不気味に存在していた。おそらく走者を出したことでリズムが狂い、球数、力みなどが影響を与えるのだろう。 8回一死から西浦が、この日初めてとなる四球を選んで出塁した。二死になったが塩見が三遊間ヒットでつなぎ二死一、二塁と得点圏に走者を進め、日米通算2593本安打の39歳のチームリーダー青木を迎えた。ボールワンからのインサイドのストレートだった。詰まった打球は、「勝つにはここで打つしかない」の青木の魂が乗り移ったかのようにセンター、レフト、セカンドの間の“魔の三角地帯”にポトリと落ちた。 高津監督が、「決して当たりはよくなかったですが、力強く気持ちで押し込んだヒットだった」と絶賛した決勝打だ。