不正競争防止法(虚偽表示等)の解釈論/米国司法省による企業内部告発者に報奨金を支払うパイロット・プログラムの運用開始
3 最近の危機管理・コンプライアンスに係るトピックについて
執筆者:木目田 裕、宮本 聡、西田 朝輝、澤井 雅登、寺西 美由輝 危機管理又はコンプライアンスの観点から、重要と思われるトピックを以下のとおり取りまとめましたので、ご参照ください。 なお、個別の案件につきましては、当事務所が関与しているものもありますため、一切掲載を控えさせていただいております。 【2024年8月28日】 個人情報保護委員会における監視・監督権限の行使状況及び漏えい等報告の処理状況に関する四半期ごとの公表 https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/supervision/ 個人情報保護委員会は、2024年8月28日、令和6年度第1四半期の「監視・監督権限の行使状況の概要」及び「漏えい等報告の処理状況」を公表しました。従前、個人情報保護委員会は、指導等の権限を行使した事案のうち、事案の重大性や類似事案の発生抑制の観点、国民への情報提供の必要性などの観点から、一部の事案を公表していましたが、事業者及び行政機関等における適正な個人情報の取扱いの参考などのため、監視・監督活動に関する公表内容を拡充したものです。 今回公表された内容によれば、令和6年度第1四半期の漏えい等報告の処理件数は、個人情報4549件と、令和5年度の四半期換算数※30 3320件を上回っており、報告の理由は、要配慮個人情報を含む個人データ等の漏えい等が生じたことによるものが2159件(52.4%)と最も多くなっている(これらの大半は病院や薬局における書類の誤送付)とのことです。 ※30 令和5年度の件数を4で除したもの。 また、令和6年度第1四半期における、個人情報保護法に基づく指導・助言の件数は142件(うち民間事業者は110件)であり、民間事業者の事案については、不正アクセスによる漏えい等の原因として、(1)VPN(Virtual Private Network)機器の脆弱性やECサイトを構築するためのアプリケーション等の脆弱性が公開され対応方法がリリースされていたにもかかわらず、事業者が放置していたこと、(2)ID・パスワードが容易に推測されやすいものとされていたこと、(3)設定ミスによりデータベースへのアクセス制御が不適切な状態になっていたことや、ファイアウォールが解除されていたことなど、安全管理措置に不備があったケースが多く見られたとのことです。 【2024年9月1日】 機能性表示食品等に係る健康被害の情報提供の義務化 https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/001298189.pdf 食品衛生法施行規則の改正により、機能性表示食品等に係る健康被害の情報提供が義務化され、2024年9月1日に施行されました。具体的には、営業者のうち、機能性表示食品の届出者及び特定保健用食品に係る許可を受けた者(「届出者等」)は、機能性表示食品及び特定保健用食品による健康被害に関する情報を収集するとともに、健康被害の発生及び拡大のおそれがある旨の情報を得た場合には、速やかに、当該情報を都道府県知事等に提供することが定められました(食品衛生法施行規則別表第17第9号ハ)。また、情報提供期限については、おおむね30日以内に同じ所見の症例が複数発生した場合は15日以内、ただし、重篤事例は1例の場合であっても15日以内とのルールが示されました(「機能性表示食品等に係る健康被害の情報提供について」(令和6年8月23日付け健生食監発0823第3号))。 【2024年9月10日】 総務省、「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会とりまとめ」を公表 https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu02_02000417.html 総務省は、2024年9月10日、「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会とりまとめ」を公表しました。詳細は、 本ニューズレター2024年7月31日号 (「総務省、有識者会議による「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会とりまとめ(案)」を公表」)をご参照ください。 【2024年9月11日】 証券取引等監視委員会、「令和5事務年度 開示検査事例集」を公表 https://www.fsa.go.jp/sesc/jirei/kaiji/20240911.html 証券取引等監視委員会は、開示検査事例集を公表しました。令和5事務年度において課徴金納付命令勧告が行われた事案のうち、特徴的なものは以下のとおりです。 ●株券等の保有者である非上場会社及び個人と、個人と共同保有関係※31にあった非上場会社が、(1)法定提出期限までに大量保有報告書や変更報告書を提出せず、(2)株券等保有割合を過少または過大に申告するなど、重要な事項につき虚偽の記載がある変更報告書を提出した事案。大量保有報告書及び変更報告書の不提出について課徴金納付命令勧告を行った事案であり、共同保有関係にあった者を含む複数の者に対して課徴金納付命令勧告を行った事案であるという点に特徴があります※32。 ※31 株式の保有者と、共同して株券等を取得したり、議決権を行使することを合意している場合(金融商品取引法27条の23第5項)等、一定の関係にある者を指します。 ※32 過去には、米国の銀行グループにおいて、システム上の不具合により保有株式の一部に集計漏れが発生し、大量保有報告書等の不提出等を理由として、同グループの4社に対して、課徴金納付命令が出された事案があります。 ●開示書類提出者が不適正な会計処理を行い、重要な事項につき虚偽の記載がある有価証券報告書を提出した事案において、開示書類提出者から株式価値算定業務の依頼を受け、引受価額以上となるように株式価値を過大に算定した個人が、虚偽開示書類等の提出等を容易にすべき行為(特定関与行為、金融商品取引法172条の12)を行ったとされた事案。特定関与行為に対して課徴金納付命令勧告を行った初めての事案であるという点に特徴があります。 ●株式会社が、(1)株式会社の連結子会社における未発注の取引に係る売上の過大計上、(2)株式会社における投資有価証券の過大計上、(3)株式会社の連結子会社における売上の前倒し計上や棚卸資産等の過大計上といった、不適正な会計処理を行っていた事案。複数のグループ会社において、多岐にわたる不適正な会計処理が行われていた事案であるという点に特徴があります。 ●株式会社が、関連当事者※33との取引を財務諸表又は連結財務諸表に注記しておらず(財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則8条の10、連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則15条の4の2参照)、売上の過大計上の不適正な会計処理を行っていた事案。関連当事者との取引に関する注記について、課徴金納付命令勧告が行われたという点に特徴があります。 ※33 親会社や子会社等、ある当事者が他の当事者を支配しているか、又は、他の当事者の財務上及び業務上の意思決定に対して重要な影響力を有している場合の当事者等をいいます(関連当事者の開示に関する会計基準)。 【2024年9月18日】 公正取引委員会、独占禁止法に関するコンプライアンスへの対応状況調査を行うことを表明 2024年9月19日付け読売新聞朝刊 2024年9月19日付け読売新聞朝刊の報道によれば、同月18日、公正取引委員会事務総長は、定例会見において、本年10月から11月にかけ、東証プライム上場企業を対象として、独占禁止法に関するコンプライアンスへの対応状況の調査を実施することを明らかにしたとのことです。本調査においては、AIやアルゴリズムを活用することで意図せず事件に巻き込まれるリスクがあることを認識しているか、またそうしたリスクに対して具体的な対策を考えているか等も質問項目に加えられる予定とのことです。 【2024年9月20日】 内閣府、副業・兼業を行った場合の労働時間の通算ルールを見直す方針を表明 2024年9月20日付け日本経済新聞朝刊 2024年9月20日付け日本経済新聞朝刊の報道によれば、内閣府に設置された規制改革推進会議は、副業・兼業を促進するため、労働者が企業に雇用される形で副業・兼業を行った場合の労働時間の通算ルール※34を見直すことを明らかにしたとのことです。従前、使用者は、労働者の申告に基づき、副業・兼業先における労働時間を日・週単位で把握し、通算労働時間が法定労働時間を超えた場合、割増賃金を支払う必要がありました。今回の見直しにより、副業・兼業先における労働時間の日・週単位での把握、及び通算労働時間が法定労働時間を超えた場合の割増賃金の支払は不要となり、健康管理のために月単位で副業・兼業先における労働時間を含む総労働時間を管理すれば足りることになるとのことです。 ※34 労働基準法38条1項は「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」と定めています。
木目田 裕,宮本 聡,安部 立飛,西田 朝輝,澤井 雅登,寺西 美由輝