旧ジャニーズに出演を断られて本当によかった…紅白歌合戦で所属タレントの起用を狙ったNHKの無頓着
■これ以上、タレントが被害者にならないために これまで、メディアの取材を受けるたびに私が繰り返し述べていることがある。所属タレントには罪はない。性加害問題とタレント起用は切り離して考えるべきだ。だが、現実的には「性加害問題⇒タレントを起用しない」というように短絡的に結びつけられてしまっている。本当は、その間に見逃してはならない肝要な問題点があるはずだ。 スタート社とスマイルアップ社における旧体制の経営陣との関係や資本ならびに資産の状況が明らかにされ、スマイルアップ社が被害者に対して充分な補償ができ、なおかつNHKがちゃんと自らの過去を検証する姿勢を見せることができていれば、スタート社のタレントが紅白歌合戦に出演することには問題はないだろう。 だが、それらのいずれの対応も充分でない。現在のような状況下では、所属タレントたちも「被害者」と言えよう。私はこの件について裏を取るべく、NHKに近しい業界関係者に取材をした。するとその人物は以下のように語った。 「所属タレントのなかには、ジャニー氏や事務所への思いや恩義、さまざまな事情によって、辞めたくても辞められない者もいる」 お気に入りのタレントがテレビに出られないなどでストレスを抱えるファンも同じように「被害者」であるはずだが、「熱量」のゆき場を失ったファンが冷静になれずに、XをはじめとするSNSで「ジャニーズ性加害問題」を取り上げる人物に対して誹謗中傷を繰り返すという現象が起きている。 ■性加害問題をこのまま風化させてはいけない 誹謗中傷は犯罪行為だ。旧ジャニーズ事務所の人気を支えてきたファンたちは、このままでは「加害者」になりかねない。彼女、彼らを加害者にしてはいけない。ファンという大衆の存在を抜きにして充分な検証がおこなわれなければ、議論は中途半端に終わり、同じような問題がまた起こる可能性がある。そう警鐘を鳴らしたい。 性加害問題を風化させないためには、NHKをはじめとするテレビ局は「メディアの雄」という慢心を捨て、「放送文化」と「監視機能」という本来の役割に立ち返り、謙虚な姿勢で自らの過去をさらけ出して、今回の問題についての充分な検証をおこなう必要がある。 同時に、スタート社やスマイルアップ社は、ファンを加害者や犯罪者にしない取り組みや呼びかけをおこなうべきだ。それが最終的には、自社の所属タレントを守ることにつながるのではないだろうか。 ---------- 田淵 俊彦(たぶち・としひこ) 元テレビ東京社員、桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授 1964年兵庫県生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、テレビ東京に入社。世界各地の秘境を訪ねるドキュメンタリーを手掛けて、訪れた国は100カ国以上。「連合赤軍」「高齢初犯」「ストーカー加害者」をテーマにした社会派ドキュメンタリーのほか、ドラマのプロデュースも手掛ける。2023年3月にテレビ東京を退社し、現在は桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授。著書に『混沌時代の新・テレビ論』(ポプラ新書)、『弱者の勝利学 不利な条件を強みに変える“テレ東流”逆転発想の秘密』(方丈社)、『発達障害と少年犯罪』(新潮新書)、『ストーカー加害者 私から、逃げてください』(河出書房新社)、『秘境に学ぶ幸せのかたち』(講談社)など。日本文藝家協会正会員、日本映像学会正会員、芸術科学会正会員、日本フードサービス学会正会員。映像を通じてさまざまな情報発信をする、株式会社35プロデュースを設立した。 ----------
元テレビ東京社員、桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授 田淵 俊彦