「今しかない」広がるリスキリングの個人向け支援 講座修了で50%費用補助、1年間働けば追加も
新たな仕事や変化するビジネス環境に適応するために、知識や技能を学び直す「リスキリング」。国は個人向け支援の充実を図っている。経済産業省は昨年、転職を目指す人を対象にした支援を始め、厚生労働省も先月「教育訓練」の給付金を拡充した。来秋にはリスキリングで仕事を休む際の生活費を支援する制度も新設される。希望する働き方や年収の増加につなげたいと、挑戦する人たちの声を聞いた。 【写真】ウェブプランナー養成講座の様子 11月半ば、IT人材育成の専門校「デジタルハリウッドSTUDIO渋谷」(東京)のウェブデザイナー講座に子育て中の女性たちが集まり、各自が作ったチラシのデザイン案を発表していた。 「どこにいても働けるスキルを身につけたい」。ベトナムからオンラインで参加した女性(35)は、第2子の育休中だった今夏、夫の転勤で日本を離れた。以前は人材紹介会社で働いていたが、いつ日本へ戻れるか分からない。今後のキャリアに悩む中、経産省が昨年6月に始めた「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」を知り、受講を決めた。約47万円(税込み)の費用のうち、講座修了で50%、転職して1年間働き続ければ追加で20%が補助され、実質17万円で受講できる。「今しかない、と背中を押された」 4月に福岡校で同様の講座を修了した女性(37)は、医療事務からウェブデザイナーへと転職した。未経験からの転職したてでも、給料は10年以上働いた前職とほぼ同じで、今後の収入増が期待できる。「就職難で職を選べず、漫然と働き続ける日々が苦しかった。今はやりがいがあって仕事が楽しい」と話す。 ◇ ◇ リスキリングが注目を集めたきっかけは、2020年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)。技術革新や社会変化に対応するため「30年までに10億人をリスキリングする」と宣言し、世界的な潮流に。岸田文雄前首相も22年10月、所信表明演説で個人のリスキリング支援に5年で1兆円を投じると表明。後を継いだ石破茂首相も支援の強化をうたう。 厚労省が管轄する教育訓練給付金は、厚労相が指定する教育訓練を受講すると費用の一部が支給される制度。雇用保険に一定期間加入して、在職中か離職後1年以内の人が利用でき、22年度は約12万人が利用した。 介護福祉士、大型自動車免許、英検、大学院の修士課程など資格取得や技術習得を目指す約1万6千の講座が対象で、今年10月からは給付率が年間最大70%から80%に引き上げられた。 さらに25年10月には、リスキリングで仕事を休む際の生活費を支援するため、賃金の50~80%を支給する制度も新設される。フリーランスなど雇用保険未加入者のリスキリングも支援するため、年2%の利率で年間最大240万円を貸し付ける融資制度も始まる。 ◇ ◇ デジタルハリウッド社によると、経産省の支援事業の対象講座は、受講者数が1・2倍に増加。急きょクラスを増やして対応しており、担当者は「二の足を踏んでいた人たちが新たなスキルを得て、働き方を変えたり独立したりと夢をかなえている」と話す。 ウェブプランナーの養成講座を運営するYOUSEED(ユーシード、福岡市)はこの秋、国指定の講座に認定され、教育訓練給付の対象に。講座を受講した佐賀県在住の男性(41)は「マーケティングなどこれまで学べなかったスキルを得て、お客さんに寄り添った提案ができるようになり喜ばれている」と笑顔だ。 「今の会社で働きながら学びたいという問い合わせも増えており、土日に学べる講座も開講したい」と同社の田原靖識代表(40)。これまでは若い世代の受講が多かったが、今後はシニア世代にも拡大していくと予測している。(新西ましほ)