【F1分析】角田裕毅のシンガポールGPはスタート失敗が最大の痛手……しかしソフトタイヤの扱いは抜群
■抜群のペースコントロール
このグラフは、角田とその周囲のマシンの決勝レース中のペース推移である。 ソフトタイヤに変えたばかりの角田のペースは一切上がらず、10周ほど前にピットインを行なったマシンたちよりも遅いペースで周回を重ねた(赤丸の部分)。 その後若干ペースを上げるも、ライバルと同等のペース止まり(青丸の部分)。この時、前を行くフランコ・コラピント(ウイリアムズ)との差は20秒ほどあるのに、これではとてもではないが届かない。一体どんな戦略なんだ! そう思った方も少なくなかったはずだ。 しかしその後、角田は一気にペースを上げる。46周目には1分37秒22、そして53周目には1分36秒393で走った。このペースは、当時のコラピントよりも1周1.5秒ほど速いモノだった。 その急激な追い上げは、本稿最初に掲載したポジション推移のグラフでもお分かりいただけるだろう。 角田はコラピントまで1.4秒ほどのところまで迫ったものの、周回数が足りずそこまで。コラピントも攻略できず、12位でチェッカーを受けることになった。 いずれにしても今回の角田としては、スタートでポジションを落としたのがあまりにも痛かった。これにより動きづらい状況に陥り、結果的に入賞を逃したということができよう。 しかし角田の後半スティント、ソフトタイヤでの走りは秀逸だった。燃料が減って車両重量が軽くなり、路面コンディションが向上したという要素もあろうが、それでも使い始めのタイヤをうまく温め、長くそして速いペースで走ることができたのだ。 ピレリのモータースポーツ責任者であるマリオ・イゾラは常々、「緩やかにタイヤを使い始めることができれば、デグラデーション(性能劣化)を抑えることができる」と言っているが、まさにそれを地で行った格好だ。 そんなポジティブな面もあれど、入賞を逃してしまった角田とRB。しばらくの休みを経てアメリカGPでシーズンが再開した後の6戦で、再び入賞圏内に戻ることを期待したい。
田中健一