深刻なプラスチック汚染、今こそ生産自体に総量規制を。汚染研究の第一人者が期待する条約制定
彼は2024年9月に人体から検出されたマイクロプラスチックの実態についてまとめた研究論文を「サイエンス」誌に発表した。同論文によれば、肺や肝臓、腎臓などさまざまな臓器や血液から、マイクロプラスチックおよびそれよりもはるかに小さいナノプラスチックが検出されている。 ――どのようなメカニズムによって体内に取り込まれているのでしょうか。 紫外線などで劣化して細かくなったプラスチックが環境中に流出し、雨に洗われ、海に漂ううちにさらに細かくなり、魚や貝に取り込まれた後に、食を通じて人体に入り込んでいる。あるいは大気中に漂っている微細なプラスチックが呼吸を通じて体内に取り込まれるケースもある。また、ペットボトル飲料や市販の弁当などにもナノプラスチックが多く混入している。
そうした問題の深刻度はまだ研究途上だが、体内に入らないように予防的な対策を講じる必要があるとトンプソン氏は主張している。 ――高田さんは、プラスチックに含まれる添加剤への懸念を指摘しています。 プラスチック製品は強度を持たせるために、添加剤が使用されている。この添加剤も、人の血液や尿、母乳などから検出されている。 プラスチック製品の場合、添加剤はプラスチックの分子の鎖の間に取り込まれる形になっていて、簡単には環境中に漏出しないとみられてきた。しかし、紫外線が当たったりしてその鎖がほどけ、プラスチック中の添加剤が環境中に出てきて、生物に取り込まれている。
実はそうした添加剤の人体への取り込みの事例は、マイクロプラスチックやナノプラスチックよりも多い。すでにいくつかの疾病との関係も指摘されている。 ■化学物質の国内規制だけでは不十分 ――どのような事例がありますか。 ビスフェノールAというプラスチックの添加剤がある。これが女性の血液中から見つかっている。子宮内膜症の患者さんで検出例があるということと、健康な人の場合には検出されていないことから、子宮内膜症の発症とビスフェノールAの関係が示唆されている。内分泌撹乱化学物質であるということで、自主規制が行われているが、使用禁止にはなっていない。