深刻なプラスチック汚染、今こそ生産自体に総量規制を。汚染研究の第一人者が期待する条約制定
また、ビスフェノールSなど少しだけ構造が違うが同じように内分泌撹乱作用を持つものへの置き換えも行われている。人への影響という点では意味のない代替だ。 ――最近では、インターネット通販で購入した海外の製品から有害な化学物質が検出される事例が、韓国などで報告されています。 化学物質については、「化審法」(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)という日本国内の法律で規制されるとともに、国内のメーカーが使用を自粛しているケースもある。
しかし海外から入ってくる製品にそれが含まれていることもある。 たとえば、私たちが一昨年に調査した事例だが、日本で販売されていた中国製の土のう袋の素材に、UV328という紫外線吸収剤が含まれていた。当時、日本のメーカーはすでに自主規制をしていたため、日本製には入っていなかったが、中国製には含まれていた。 私たちの研究室では土のう袋の一部を切り取って有機溶媒に溶かし、質量分析計で特定の紫外線吸収剤が含まれていないかをチェックした。抽出だけでも1週間を要したが、UV328が検出された。私はそのことを国際会議で報告し、それも一因となって有害化学物質を規制するストックホルム条約でUV328は使用禁止となった。
――UV328は人体からも検出されているのでしょうか。 私たちの測定では、今のところ、人体からは検出されていない。ただ、海鳥からはすでに見つかっている。私たちの研究室では、世界中の研究者に呼びかけて、海鳥の尾羽の付け根から分泌される脂をサンプルとして送ってもらっている。それらを分析して、成分を調べている。 UV328はこれまでにマリオン島やゴフ島といった、南アフリカ共和国と南極の間にある無人島から採取された2種類の海鳥の尾羽の脂から、高い濃度で検出されている。
■プラスチックが有害物質の運び屋に ――そこからどのようなことが言えるのでしょうか。 世界規模でプラスチックによる汚染が広がっているという事実だ。添加剤を含んだプラスチックが漂流し、それを食べた海鳥の体内の脂肪にたまっていることがわかった。ここではセンチメートルないしミリメートル単位のプラスチックが運び屋となっている。 オーストラリアの西海岸では、UV328の類縁物質であるいくつかの添加剤が海鳥の尾羽の脂から高い濃度で見つかっている。こうした物質が原因と思われるが、その海鳥では血液中のカルシウムの濃度の減少が認められている。