ホンダGB350に見るホンダの英国風トラディショナルバイクへの情熱
ライダーを王様に見立てたデザイン
デザインの中でポイントとなったのが、「マッチョ」というインド人ユーザーの言葉でした。最初はとにかく大きく作ってみたところ、彼らに「これは違う」と言われてしまいます。試行錯誤の中、「大きく見せるには絞らなければいけない」という気づきを得て、デザインコンセプトである「マッシブ & シェイプド」という方向性が決まりました。 さらにインド側から「バイクに乗ってる姿が王様に見えるようにしてほしい」という要望があり、ライダーが堂々と背筋を伸ばして乗るといった、存在感あるライディングポジションが決まっていきました。 出来上がったデザインは、丸目ヘッドライトにティアドロップタンク、丸みの強い前後フェンダー、クレードルフレーム、直立したシリンダーのエンジンと、とてもトラディショナルな英国車のスタイリングに仕上がっていました。
開発者の思いとマッチしたエンジン
じつはGB350の開発チームでエンジン開発を担当したのは、山本さんと大学からの同期だった若狭秀智さんでした。若狭さんは「美しい空冷エンジンには趣味的なニーズがあるのではないか」と、以前から研究を続けていました。彼がその思いを実現すべく、新空冷単気筒の企画書を作った時、上司から提案されたのが、GB350のエンジン開発担当だったのです。 「新規のエンジンを開発するにはいろいろなモデルに使えるものがいい。でも尖ったエンジンでなければインドのお客様に刺さらない」という山本さんの要望。それに応えるべく生み出されたのが、GB350に採用された、新開発の空冷4ストローク単気筒348ccエンジン。 ほぼ直立したシリンダーに、吸排気が水平に配置されているというトラディショナルな構成です。ホンダが、クラシック路線のエンジンを新規で開発するってレアだよね。ちなみに、この350ccという排気量は、かつてロードレース世界選手権でも、カテゴリーとして存在していたりと、歴史あるものだったりします。 もちろん英国車にも、市販車に350ccクラスがあって、数多くのラインナップがありました。分かる人は見ただけでも唸る数字なんです。2024年11月現在でもインドではロイヤルエンフィールドに、BULLET350をはじめとした、350ccのラインナップが存在しているのは、その伝統を受け継いでいるからなんだよね! その後も、山本さんが無茶ぶりをし、若狭さんがそれをクリアするという二人三脚でエンジン開発が進んでいきました。シンプルなエンジンとはいえ、そこはホンダ製。摺動抵抗低減のためのオフセットシリンダーや、エンジンの高さ低減と最低地上高の確保を同時に実現するために密閉式クランクケースを採用するなど創意工夫が満載です。 不快な振動を低減するために1時バランサーの他に、メインシャフト上にウエイトを追加するなど、乗り心地に関する部分もぬかりありません。これらによって、街乗りからロングツーリングまで、幅広いシチュエーションでクリアな鼓動と力強さを実現したのです!