超大型加速器「国際リニアコライダー」で何がわかるの?
日米欧の協力でつくる「加速器」
宇宙の謎に迫る超大型加速器「国際リニアコライダー」(ILC)の建設を日本に誘致するかどうかについて、国から諮問を受けた日本学術会議の検討委員会が8月12日、「時期尚早」との見解をまとめました。東北と九州が誘致合戦をしているILCとは何でしょうか。 ILC(International Linear Collider)とは、地下につくる全長約30kmの直線状トンネルの中で、電子と陽電子(プラスの電子)を衝突させる実験を行うことを目的とした加速器のことです。「加速器」とは、粒子に大きなエネルギーを与えて加速させる装置です。 現在、日米欧の協力によって、2020年までの加速器完成をめざす「国際リニアコライダー計画」が構想されています。宇宙ができたときに起きた高エネルギー反応を再現することによって、さまざまな宇宙の謎を解明することがうたわれています。
ビッグバンを再現
ILCで行われる実験は、きわめて高いエネルギーで電子と陽電子を光の速度近くまで加速させて、正面衝突させます。この衝突実験によって、宇宙が約137億年前に始まるきっかけとなったとされる大爆発「ビッグバン」をほぼ再現するものと説明されています。もっとも、ビッグバンといってもごく小さいもので、宇宙をつくることができたとしても、すぐに消えてしまうほどのものですが。 ビッグバンを再現し、そのとき生じる粒子を調べることによって、数々の宇宙の謎、すなわち、この世界がどのように成り立っているのかを明らかにしようというのです。 具体的には、2012年7月にそれらしきものが発見されて話題になった「ヒッグス粒子」の検証や、宇宙の大部分を占める「ダークマター(暗黒物質)」や「ダークエネルギー(暗黒エネルギー)」の解明などがあげられています。また、医薬品の開発を含む医療、環境、エネルギーなど幅広い分野へも応用も進むと予想されています。
経済効果は年間数百億円か
現在、アメリカのシカゴやスイスのジュネーブなど5カ所が加速器の建設候補地になっています。日本では、岩手県と宮城県にまたがる北上山地と、佐賀県と福岡県にまたがる脊振(せふり)山地が候補地で、地元財界などが誘致活動をしています。 その理由は経済効果です。建設には6000人以上もの人員を必要とすることだけでなく、完成した後には、研究者やその家族ら約1万人が居住することなどから、雇用創出効果も含めて年間数百億円もの大きな経済効果があることを、地元の経済団体などが見込んでいます(北上では、震災からの復興のシンボルとしての意味も期待されています)。 今年8月中にも、研究者で組織される「ILC評価委員会議」が日本における建設候補地を一本化する予定です。