アートの「経済的な持続性」のために一流機関がやっていること
社会や経済の未来を、アートによるビジョンメイキングを交えて考える都市型のカンファレンスイベント「FUTURE VISION SUMMIT 2024」が、大丸有(大手町・丸の内・有楽町)エリアの複数拠点で開催された。 11月13日には、「アルスエレクトロニカ・フューチャーラボ」芸術監督の小川秀明、「NEW INC」ディレクターのサロメ・アセガが登壇。アルスエレクトロニカは、1979年に電子音楽のフェスティバルとしてオーストリア・リンツ市で始まった世界的なクリエイティブ機関。NEW INCは、ニューヨークの「ニュー・ミュージアム」が2014年に設立した文化インキュベーターだ。 ともに、アート、テクノロジー、デザインを加速させる集団として、また、小川もアセガも自らアーティストであるという立場もいかしながら、イノベーションを創出し、アントレプレナーシップを支援してきた。 トークセッションでは、“直島”の文化事業で知られるベネッセコーポレーション取締役会長の岩瀬大輔がモデレーターを務め、テーマである「アートが変える個人・組織・社会の未来」について、また、「答えのない問い」とも言うべきアートとビジネスの関係について語り合った。 ──「アートが変える個人・組織・社会の未来」について考える前に、おふたりはアートをどう定義しますか? 小川:私はアートそのものを定義しようとするのではなく、アートとは異なるものと比較することでアートの意味が明確になると考えています。 デザインとの比較でいつも参考にするのは、グラフィックデザイナーでテクノロジストのジョン・マエダの「Designers create solutions. Artists create questions.」という言葉。「デザインは、製品やサービスを効果的に形づくる解決策を生み出す。アートは、なぜ私たちはここにいるのか、と違う角度から物事を考える新たな問いを生み出す」という意味です。 では、テクノロジーと比較してみるとどうでしょう。私は、テクノロジー自体に何か意味があるわけでなく、何かのための新たな可能性でしかないと思っています。例えば、ドローン技術は社会に新しい可能性を生み出しますが、大事なのは、それは一体なんのためのものなのか、ということです。アートはテクノロジーにその意味を問いかけ、対話を生み出してくれます。 このように、アートは、人々のビジョナリーな思考、哲学的な考え方を刺激し、創造性を発揮させる可能性と、ものごとの意味を考えさせる力があると思います。 アセガ:私がアートを定義するときには、研究者/デザイナーのサーシャ・コスタンザ=チョックの著書『Design Justice: Community-Led Practices to Build the Worlds We Need(デザイン・ジャスティス:コミュニティ主導の行動から、私たちが必要とする世界を築く)』に書かれていることを参考にしています。 この本には、アートやデザイン、カルチャーのゴールは、人種的、宗教的、民族的、文化的な多様性が許容される社会へと導くことだと書かれています。 また、小川さんは「札幌国際芸術祭2024」でもディレクターを務められましたが、この芸術祭を「未来の学校のようなもの」と表現した言葉にとても共感しました。NEW INCを今後どのような場にしたいか考える際にも意識したいですね。