典範改正の国連勧告とメディア報道の貧困 成城大教授・森暢平
憲法前文に「専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」と宣言するこの国にあって国際社会が推進するジェンダー平等の理念と決別するかのような社論を掲げる新聞社が存在するのはどういうことか。 『読売』『産経』を読んで、1932(昭和7)年、満州事変後のリットン調査団報告書が出たときを思い起こした。『東京日日新聞』(10月3日付)は、①報告書は法的束縛力を持たない、②日本の主張が聞かれないなら国際連盟を脱退する――などの政府方針で社会面を埋めた。ジャーナリズムは、国際連盟の横暴や不当干渉を書きたて、結果的に翌年、日本は国際連盟からの脱退を通告する。 今回の勧告は、リットン調査団報告書同様、法的な強制力は持たない。ただ、過去において、CEDAW最終見解が、王位継承ルール変更に繋がったルクセンブルクの例がある。CEDAWは2000年、同国に対し、男子優先だった王位継承ルールの見直しが進んでいないことに懸念を表明した。ルクセンブルク王室は10年、「家憲」を改正し、長男が継承する方式から、男女を問わず長子が継承する方式に変更した。現在の大公、アンリ(69)には、王子ギヨーム(43)がおり、さらに彼には長男、二男がいる。当面「女王」が即位する可能性は少ない。だが男女の平等権に基づいた国際機関の勧告によりルールを変える必要に迫られたのだ。 今回の勧告に対し、保守系以外の論考は少ない。リベラル派が天皇制を語りたがらないことが要因だろうが、保守評論だけがすべてのような印象を与えてしまう。現代日本のジャーナリズムは、世界の潮流を知り、唯我独尊の日本特殊論から脱却する必要がある。 (以下次号) ◇もり・ようへい 成城大文芸学部教授。1964年生まれ。博士。毎日新聞で皇室などを担当。CNN日本語サイト編集長、琉球新報米国駐在を経て、2017年から現職。著書に『天皇家の財布』(新潮新書)、『天皇家の恋愛』(中公新書)など
サンデー毎日12月1日号(11月19日発売)には他にも「佐高信×田原総一朗 再びトランプ時代到来 石破首相は、石橋湛山・田中角栄的な『対米自立』を担えるか!」「大切な人の看取り方 死に向かうサインを知る 『臨死期』の体の症状と家族の心得 大崎百紀」「肉づくし、糖質に配慮、容器ごとレンチン可能、喪中の人向け…2025 おせち商戦 白熱過熱!」などの記事も掲載しています。