典範改正の国連勧告とメディア報道の貧困 成城大教授・森暢平
◇「歴史」「伝統」をもって不平等を正当化できない 『読売』は、「日本の皇室制度は長い歴史の中で培われてきた。男系男子による皇位継承は、今上天皇を含めて126代にわたる」「日本の皇室制度の特徴を何ら理解せず、誤解に基づくもの」とも書く。『産経新聞』(11月1日付)の社説「皇位継承への干渉 政府は国連の暴挙許すな」にも同じような記述がある。「男系男子による継承は皇位の正統性に直結している」「歴史や伝統が異なる他国と比べるのも論外である」とした点だ。 歴史学研究はこれまで主に男性によって担われ、男性中心の視点で描かれた。女性は歴史の周縁に位置付けられてきた。しかし、女性史の分野が進展し、男性中心史観というバイアスを排除する見方が広まった。『日本書紀』『古事記』編纂(へんさん)時の政治的意図を考慮すれば、古代の皇位が決して「男系」の論理だけで繋がれていなかったことは研究者の間では常識である。古代において、天皇の継承は、双系的な親族構造を基にしていた。『読売』『産経』社説は、歴史の構築性を理解せず、浅薄な理解しかできない者の独善的な断定である。 そもそも「歴史」「伝統」をもって、男女不平等を正当化することはできない。前出の秋月の前に、日本政府推薦の委員となった林陽子(弁護士)は、リビアに存在した不貞を疑われた女性が収容される「更生」施設について、同国政府が「社会の価値を擁護するため」の施設と悪びれもなく開き直ったのを見た経験を書いている(日弁連サイト「国際機関就職支援インタビュー林陽子会員」09年3月3日)。皇位継承の男女不平等を、歴史と伝統を理由に正当化する日本の態度を国際社会はどう見るだろうか。 ◇『産経』、条約脱退を主張 戦前の国連離脱を見るよう 『産経』社説は、「(日本政府の)抗議と(皇室典範に関する記述の)削除要請は当然だが、それだけでは不十分だ。削除に至らなければ、国連への資金拠出の停止・凍結に踏み切ってもらいたい。条約脱退も検討すべきである」とまで踏み込んだ。条約は189の国・地域が締約国となり、署名・批准していない主な国連加盟国はイラン、スーダン、ソマリア、そして米国などである。「内政干渉」を嫌うこれらの国々に日本が並ぶ姿は見たくない。