【選手権コラム】智将+闘将。高校年代最強の大津を流経大柏が誇る“二人のキャプテン”が封じ込む
1月2日、第103全国高校サッカー選手権の3回戦が各地で行われた。フクダ電子アリーナでは優勝候補の筆頭に名前の挙がる2校の対決が実現。流通経済大学付属柏高校(千葉)と大津高校(熊本)の対戦は、「本当に高校サッカーって最高だな」と流経・榎本雅久監督が形容するタフな攻防の末、明暗が分かれることとなった。際どい勝負を引き寄せたのは、流経が誇る二人のセンターバック、二人のキャプテンの奮戦だった。 第103回全国高校サッカー選手権大会 試合日程・放送予定・キックオフ時間 取材・文=川端暁彦
高校年代最強の大津を前にして
今年の高校年代で最強チームはどこか。そう問われたとき、真っ先に名前が挙がるのは熊本県立大津高校だろう。 全国を東西2ブロックに分け、年間を通じたリーグ戦で、Jユースも含めて争う高円宮杯プレミアリーグ。西日本を制し、東の王者とのファイナルも制してチャンピオンになったのが大津である。文句なしに、2024シーズンのユース年代の最強チームだ。 もちろん、年間を通してのアベレージの高さが重要なリーグ戦の強さと、“最後に強かったかどうか”が問われる全国高校サッカー選手権大会での強さはまた別物ではある。ただ、冬に向けて仕上がっていた熊本の雄の力は、その点でも抜きん出たものがあった。 「おいおい、最高じゃねーかよ!」 組み合わせ決定後、そんなチームとの早期対戦が実現したことについて、選手たちの前でもそう語っていた者がいる。流経大柏の榎本監督だ。 大津について「本当に強い」と最大限のリスペクトをしつつ、だからこそ燃えているんだという態度で選手たちを煽ってきた。「自分たちと似ている」と語るように、肉体的な強さと技術的な精度を兼ね備えつつ、最後のタフネス勝負を売りにする方向性も同じ。厳しい戦いも想定して試合に入った。
二人の主将
「自分たちはチャレンジャーなので」 流経大柏の二人のキャプテン、DF佐藤夢真とDF奈須琉世は、大津戦に向けたメンタリティーについて奇しくも同じ言葉を使った。相手を上にみてディフェンシブに臨むという意味ではなく、立ち上がりからガチガチの真っ向勝負を挑むという方向性だ。 大津の山城朋大監督も認めたように、前半はこの勢いを持って試合に入った流経大柏が大津を上回る流れとなった。そのベースとなったのは、「本当に素晴らしい選手たち」と榎本監督が形容する大津自慢の2トップを中心とする攻撃陣に対抗した、流経が誇る“二人のキャプテン”がいる。 今季、流経大柏は珍しい“ダブル主将”の体制を採用している。その一人が佐藤。理知的なラインコントロールや試合の中の洞察力に秀で、タフさと沈着さを併せ持つCBだ。 もう一人が奈須。こちらは旺盛な闘争心とガッツあふれるプレー、「男らしい」(佐藤)と仲間からも自然と頼られるマッチョなタイプ。選手権の県予選では「苦しくなったら俺を観ろ!」と仲間に言っていたような闘将である。 この試合のキャプテンマークは佐藤がまいていたのだが、奈須もまたキャプテンである。二人に上下はなく、「キャプテンと副キャプテンではなく、どっちもキャプテン」(佐藤)という形だ。 これが可能なのは、二人の関係性が「本当に仲が良い」からこそ。タイプの異なる二人が補い合うことで強みを発揮しつつ、苦しい時期には一人が主将の重責を背負い込みのではなく、負荷を分担して過ごしてきた。 また佐藤は今季の前半戦はプレミアリーグを戦うトップチームの試合で出場機会がなく、プリンスリーグ関東を戦うセカンドチームでプレーすることが多くなった。苦しい時間を過ごしたものの、セカンドチームから這い上がってきた信望は厚く、「出られない選手の気持ちはわかる」主将の存在は多くの部員を抱えるチームにとって大きかった。 佐藤自身も「一緒にプレーしていた選手たちもあそこにいるので」と、スタンドから声援を贈るメンバーの声に強く共感する中でパフォーマンスを発揮しており、この日もガッツあふれるプレーでチームを支えてみせた。 また奈須はストッパーとして存在感を見せつつ、同点にされたあとはメンバーを集めて笑顔も見せて気合いを入れ直す“闘将”ぶりを披露。「人生で一番キツい試合だった」と振り返ったゲームにあって、佐藤との名コンビで大津攻撃陣に最後まで仕事をさせなかった。 また大津とのビッグゲームを制したことで浮き足立つ雰囲気も出そうな流れだが、佐藤は「それはない」とキッパリ。沈着な主将は、ここからチームを引き締め直すことも、すでに確認済みとのことだった。