死後3年、奥多摩で発見された遭難者 捜索のプロも「涙が止まらなかった」 “難しくない山”で起きた山岳遭難
「山に出かけた家族が、帰ってこない――。」 【写真を見る】エッ、知らなかった…登山で「道迷いをしやすい場所」とは
民間の山岳遭難捜索チームLiSS(リス)のメンバーと代表の中村富士美氏は、思いも寄らない事態に戸惑う家族から依頼を受け、山へ捜索に向かう。 捜索団体を立ち上げる前、地元の小学生も遠足で登る里山で、遭難者が出たという話を聞いた中村氏。実際に登ってみると、最初は「そんなに難しくないかな」という感触。しかし、途中で何人もの人がルートを間違えているポイントがあり……。 中村氏が実際に携わった捜索活動の事例をまとめた初著書『「おかえり」と言える、その日まで 山岳遭難捜索の現場から』より一部抜粋してお届けする。 ***
「そんなに難しくない山」のはずだった
山に登るようになって1年ほどが経った、2012年10月のある日。 「奥多摩の山で、人がいなくなったんだ」 そうメールを送ってきたのは、私を山に導いてくれた師匠である。 その時私は、全国の救急医療従事者が集う大会のスタッフとして大阪にいた。 大会が終わり、東京の自宅に戻った後、電話で話した。捜索はすでに打ち切られたのだが……と言って彼が口にした山の名前は、地元の小学生も遠足で登る里山だった。名前を棒ノ折山(標高969メートル)という。 私は週末、その山に登ってみることにした。 初めて訪れる山だったが「そんなに難しくないかな」という感触だった。 ダムの湖畔に登山口があり、そこから沢に沿って山頂を目指すコースだ。最初は水の流れる沢を数十メートル下に見ながら歩くが、登るにつれ次第に沢と登山道が合流して、やがて沢そのものが登山道になる。足元には大小様々な大きさの岩がゴロゴロと転がっており、時には沢を渡ったりもする。濡れていて、しかも不安定な岩や石も多く足元がおぼつかない。そのような登山道を登るのも、初めてだった。 後々知ることになるのだが、道迷い遭難をしやすい代表的なパターンに「登りの沢、下りの尾根」というものがある。