死後3年、奥多摩で発見された遭難者 捜索のプロも「涙が止まらなかった」 “難しくない山”で起きた山岳遭難
3年越しの発見
これまで、看護師として、救急の現場で10年以上も働いてきた。容体が急変した高齢者、交通事故で亡くなった高校生、親から虐待を受けた幼い子供、自殺……様々な形の死を目の当たりにしてきていた。 しかし、死後3年も経った方のご遺体を見るのは、この時が初めてだった。ましてや、初心者コースにも紹介されるような山の中で、だ。 登山道からほんのわずか外れた場所……そんなところで3年もの間、たったひとりで見つけてもらうのを待っていたのかと想像したら涙が止まらなかった。 そんな私に師匠は声をかけてくれた。 「見て、この景色。ここで亡くなった人が最後に見た景色だよ。この景色を自分たちが忘れないでいることが、見知らぬ方への供養になると思うよ」 その言葉で私は顔を上げて周りの景色を眺めた。山間(やまあい)から遠くには街並みが見え、辺りは木々が生い茂り、人間の力ではびくともしない岩塊が、自然の力強さを感じさせる場所だった。 どんな気持ちでこの山を選んだのだろうか、どんな気持ちでこの山に入ったのだろうか、遭難した時、何を思ったのだろうか、ようやく自宅へ戻ることができて、安心されただろうか。 数日後、私はお花とお線香を手向けるため、再びこの現場を訪れた。 それから数ヶ月後、私たちが見つけたご遺体と、所持品にあったキャッシュカードの名義の方のDNA型が一致したとの報告を受けた。 ※『「おかえり」と言える、その日まで―山岳遭難捜索の現場から―』より一部抜粋・再構成。
デイリー新潮編集部
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