停電でも電気が復旧しなくなる…「技術者不足」の悲惨すぎる未来
ベテラン技術者引退で技術の承継が進まない
さらに問題なのは、大型新設工事を経験してきたベテラン技術者の多くが引退時期に差し掛かっていることだ。技術者の絶対数が減るだけでなく、経験に裏打ちされた熟練技術の承継が進んでいないケースもみられる。 送配電以外でも技術者の不足は深刻化している。経産省の資料によれば、2030年度時点で第2種電気主任技術者が1000人程度、第3種電気主任技術者(外部委託)が800人程度不足するという。 再生可能エネルギーなど新しい電源の接続によって送変電容量が足りなくなる場合には送電線や変圧器の新設といった設備の補強工事が必要となることなどもあって、将来的にはさらにこれらの技術者の不足は拡大する見通しだ。 経産省は、第2種電気主任技術者について地域偏在も懸念している。風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーは、風量や日射量などの自然条件によって適地が選ばれる。このため、その発電施設は地方の山間地に立地することが多い。 ところが、人口減少が先行する地方では若い技術者を確保することは困難で、都市部に住宅を取得しているベテラン技術者にはいまさら転勤したがらない人が多いのだという。この結果、都市部の現場に技術者が集中し、地方では採用が困難な状況が生じている。 技術者不足は地方だけの話ではない。都市部での再開発に伴うビルの建設ラッシュも要因となっているためだ。新しいビルが建っても電気主任技術者がいなければ、そのビルは利用することができない。 年末の大雪では各地で停電が起きたが、電気主任技術者が少なくなったならば復旧までの時間はこれまで以上にかかる。これらの事例だけでも分かるように、技術者不足が社会に及ぼす影響はかなり大きい。 先述した鉄塔や送電線の老朽化に伴う建て替えや大規模修繕に加えて、再生可能エネルギー導入に伴う新設や、地方から電力需要の大きい三大都市圏などに電気を送れるようする地域間の連係線増強もあり、電気事業をめぐる工事の需要は増加する一方だ。 もしこのまま技術者の人手不足や地域偏在を放置したならば、日本は2050年までの温暖化ガス排出量実質ゼロという目標を達成する前に、電気が不安定な「貧しい国」へと陥ることとなる。 つづく「日本人はこのまま絶滅するのか…2030年に地方から百貨店や銀行が消える「衝撃の未来」」では、「ポツンと5軒家はやめるべき」「ショッピングモールの閉店ラッシュ」などこれから日本を襲う大変化を掘り下げて解説する。
河合 雅司(作家・ジャーナリスト)