停電でも電気が復旧しなくなる…「技術者不足」の悲惨すぎる未来
6000人弱で8万キロの送電線を点検できるか
だが、積極的な原子力発電に踏み出せば、日本の電力事情がただちに好転するわけではない。 発電方法ばかりに関心が集まっているが、日本のエネルギー問題にはもう一つ大きなアキレス腱がある。全国に張り巡らされた送配電網を維持・管理する技術者の不足だ。 どのようなエネルギーで発電しようとも、利用者に安定的に電気が届かなければ意味をなさず、われわれは「便利な生活」を手に入れることはできない。 電気に関連するあらゆる分野で人手不足が進んでいるが、例えば送電線だ。 「ラインマン」と呼ばれる建設や保守・点検を担う技術者は、新規就職者が少ないだけでなく、若手社員が早期退職するため人手不足が慢性化している。 山奥に分け入るだけでも重労働だが、鉄塔に登り、電線に宙乗りとなって作業を行う業務のため長期間の訓練を要する。適性が問われ、誰でもできる仕事ではないこともハードルとなっている。 一般社団法人送電線建設技術研究会の資料によれば、2000年度には7406人を数えたが、2020年度は5786人(うち作業員3948人、作業責任者1838人)だ。ここまで減った背景には少子化の影響がある。どの職種もそうであるように、ラインマンの人手不足もより深刻になることが予想される。 一方で、国内の鉄塔と送電線の老朽化は著しく、現在は毎年1000基のペースで更新が必要になっている。送電線鉄塔は約24万基、電線総延長(亘長)は約8万キロにおよぶが、経済産業省の資料によれば鉄塔の3割弱にあたる6万5000基は1970年代の建設だ。同省はこれから建て替えや大規模修繕の必要性が高まるとしている。 わずか6000人弱で8万キロもの送電線を保守・点検するだけでも大変だというのに、こうした需要増が加わったのでは人手不足はさらに深刻化しよう。 最近はドローンでの点検や、傾斜地にも対応する鉄塔建設用のクレーンが登場して作業の省力化も進んではいるが、すべてを機械任せとは行かない。 送電線と樹木が接触すると大規模な停電を起こすため定期的な伐採作業が必要で、これなどは技術者が現場に出向かなければならない作業の1つである。