曹法相が目指す検察改革 背景にある「過去の清算」という韓国政治の大問題
韓国の曹国(チョ・グク)法務部長官(法務相)をめぐるスキャンダルは、日本でも“タマネギ男”と呼ばれ、連日報道されました。しかし文在寅(ムン・ジェイン)大統領が曹氏の長官起用にこだわった理由が韓国検察の改革だったことは、意外と知られていないかもしれません。 【図表】逮捕に自殺……韓国大統領に繰り返される悲劇は断ち切れるか 文大統領や曹氏が政治的リスクを負ってまで推し進めたい検察改革は、韓国政治に横たわり続ける「過去の清算」問題の一環だと、元外交官で平和外交研究所代表の美根慶樹氏は指摘します。そしてそれは日本と韓国間の問題に対応する際にも考慮が必要だといいます。美根氏の論考記事です。
ことごとく歴代大統領を手にかけてきた韓国検察
韓国では文在寅政権と検察当局の間で緊張が高まっています。文在寅大統領は9月9日、検察改革を進めるため、側近の曹国・ソウル大学教授を法務部長官に任命しましたが、曹氏については娘が名門大学や大学院に不正入学したとの疑惑、さらには私募ファンドの不透明な投資、偽装離婚、文書偽造、年齢詐称、証拠隠滅などの問題がタマネギの皮でもむくように次々に出てきたのです。 検察当局はすでに曹氏の親族に対する調査を開始し、10月3日には曹氏の妻で韓国東洋大教授のチョン・ギョンシム氏を、娘の大学院不正入学疑惑などで事情聴取に踏み切りました。その関連で曹長官の自宅も捜査しました。検察による調査・事情聴取の対象はさらに長官の息子や娘にも広がっています。親族の中には逮捕者も出ています。検察当局はいずれ曹長官についても取り調べを始めるとの見方もあります。
韓国における検察は「検察共和国」と揶揄されるほどに強大で、歴代の大統領やその親族を汚職捜査などで有罪にしたり、結果的に自殺に追い込んだりしてきました。特に全斗煥(チョン・ドゥファン)から7代の大統領は、側近、親族らを含めれば、全員が検察によって強制捜査を受け、あるいは訴追されました。 文大統領は、検察があまりに強大な権力を握っているのは問題だという考えで、その権限を縮小する改革に取り組んでいます。重点の一つは、検察が現在独占している捜査権と起訴権のうち、捜査権の一部を警察にも分ける「検察・警察捜査権調整法案」を成立させること。もう一つは、歴代の元大統領まで次々に訴追するのは検察の行き過ぎであるとして、高官の汚職などを捜査・訴追する権限を検察から切り離し、新設の独立機関「高位公職者犯罪捜査処」に委ねることだといわれています。