曹法相が目指す検察改革 背景にある「過去の清算」という韓国政治の大問題
「正義の追求」と表裏一体の「過去の清算」
なぜ「過去の清算」は時代を超えた大問題になるのでしょうか。私は、韓国民の中には歴史的に自分たちは守られてこなかったという気持ちが強く、政権が代わるなどのきっかけで不満が表面化し、やり直しを求める傾向があるからだと思います。極端な表現かもしれませんが、韓国には、過去を受け入れず「新たに歴史をつくろうとする」政治文化があるのではないでしょうか。 10月3日は韓国の建国記念日でしたが、大統領府前の光化門(クァンファムン)で、曹法務長官と文大統領を激しく糾弾する大規模な集会が行われました。今回の人出は、朴前大統領を弾劾に追いやった「ろうそく集会」に匹敵する規模であったともいわれています。
このような国民の強い怒りを前にすると、文在寅政権も否定される危険があると思われてなりません。これまでの歴代政権と同じく、将来には国民による「過去の清算」の対象になるのではないかという気持ちがぬぐえないのです。 韓国では「正義が重視される」とよく指摘されます。デモ隊が叫ぶのも「正義」だし、大統領の演説にも「正義」がしばしば出てきます。私はこの「正義」を求める気持ちと「過去の清算」を求める気持ちは表裏一体ではないかと思っています。すべての制度は過去につくられたものですが、それに満足できないのでやり直し、つまり「正義」を求めるのです。 また、韓国は「恨の文化」だともいわれますが、同じ性質の問題でしょう。「恨」とは単なる「うらみ」でなく、達成したいのに達成できない「悔しさ」が含まれています。 日本にとって、韓国は最重要の隣国ですが、同時に、上記の通り容易ではない相手です。慰安婦問題や徴用工問題、さらには1965年の日韓基本条約と請求権協定についても、そのような政治文化を考慮に入れておく必要があります。これらの問題について、日本が韓国に国際法を守るよう求めることは当然ですが、それだけでなく、韓国が国際法を守ることを自ら望むようになる方策を探求することも必要です。 韓国がさらに経済発展することはそのための有効な手段になり得ます。経済においては合理性が重視され、どの国であれ、経済を発展させるには、貿易であれ、投資であれ、技術開発であれ、国際的に通用する行動を取ることが必要になるからです。 日本と韓国は現在、政治面だけではなく経済面でも対立関係を深めていますが、そのような状態ではせっかくの経済の合理性も働きません。両国は今後、首脳会談などによる政治的解決を目指すと同時に、経済面での協力関係の回復に努めるべきであり、そのためにお互いの輸出規制強化を元の状態に戻すべきだと考えます。
----------------------------------- ■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスタン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹