防災士になり地域啓発「想定外のこと絶対起こる」…台風23号20年
2004年の台風23号水害で被災した経験から「防災士」の資格を取得し、地域や学校で災害に備える重要性を訴え続ける男性がいる。測量事務所を経営する大広勝美さん(68)(兵庫県豊岡市梶原)。20日で発生から20年となり、水害を知らない世代が増え、記憶が薄れる中、「誰かが語り継いでいかなければ」と力を込める。(熊谷暢聡)
「ここが決壊するとは思ってもいなかった。夜が明けると、一帯が茶色の水で覆われていた」。自宅から約400メートル離れた円山川の堤防に立った大広さんは〈あの日〉を振り返った。 夜になり、仕事先から帰宅しようとすると既に周辺の道路が冠水していた。腰の高さまで水につかりながら自宅にたどり着く。その数時間後、堤防が決壊し、泥水が押し寄せた。 自宅がある梶原地区は円山川支流の六方川が流れ、過去に浸水被害がたびたび発生していたことから、家の新築時に敷地をかさ上げした。にもかかわらず、床上約1・5メートルまで浸水。災害ごみと化した家財道具の搬出や泥かきに追われる日々が続いた。 大広さんはのちに集落の役員となり、田んぼの被災で税の減免などを求めた地元の古い資料を目にした。「ここは昔から水害が多発していた場所。防災対策をしっかりやらなければ」。また、測量の仕事でも災害復旧工事の現場に何度も足を運んだ。そうした経験が防災への思いを強くさせ、11年に県の養成講座を受講して防災士の資格を取った。
防災士はNPO法人「日本防災士機構」が認証する民間資格で、阪神大震災を教訓に創設された。防災に関する知識・技能を学び、地域防災のリーダーとして、日常的な防災活動、災害時の避難誘導や避難所運営などに取り組む。 大広さんも、地域団体の防災学習会の講師や集落の防災担当を務めるなど住民の意識啓発に努める。 災害ボランティアとして赴いた丹波豪雨(2014年)の被災地では、一瞬にして人家が巻き込まれる土砂災害の恐ろしさを目の当たりにした。「但馬は崩れやすい地質の所が多い。線状降水帯が生じたら二の舞いになる」。近年は全国各地で豪雨災害が頻発。昨年8月の台風7号では但馬地域でも床上浸水などの被害が出ている。 若い世代に被災経験を伝えるのも自らの役割だと考え、学校での防災学習の講師も引き受ける。今月19日には豊岡市立神美小で、災害時に身近で起こりうる出来事や対策を考えてもらうワークショップを行う。 災害に対し、「『我が事意識』を持ってほしい」と大広さん。「台風23号は『最後の水害』ではないことを肝に銘じておくべきだ。様々な対策が進んでも、想定外のことは絶対に起こる」と力を込めた。