『団地のふたり』ヒットの理由は「共感」と「リアリティ」。主人公2人が55歳、築58年の団地の懐かしさ
◆2人が55歳だから成り立つ ノエチとなっちゃんを高齢化率の高い地域に住む55歳にしたのも成功の理由である。55歳は世間の認識ではもう若くはない。だが、夕日野団地は1960年代に建てられ、世帯主は70代、80代ばかりだから、その中では若い。 この物語はそんなノエチとなっちゃんの立場をフルに活用し、状況に応じて2人を熟年者、若者と往き来させた。たとえば第5回、20代で2児の母親である沙耶香から夫・翔太(前田旺志郎)の浪費癖についての相談を持ち掛けられると、2人は熟年者の顔を見せた。人生経験と知恵を生かし、相談に答えた。その後も2人は熟年者らしく沙耶香の世話を焼く。 一方、同じ第5回の夕日野団地の夏祭りで2人は若者になる。カラオケ大会で住民の小学生女児・田川春菜(大井怜緒)たちと若者に人気の緑黄色社会による「キャラクター」を歌い、踊った。服装も派手だったが、顔をしかめた高齢住民は誰一人いなかった。高齢住民にとって2人は若いからである。観る側にも違和感を抱かせなかったのも2人を夕日野団地の住民にしたからだ。 2人が高齢化率の高い地域の人ではなかったり、45歳、あるいは65歳だったりしたら、この作品を成立させるのは難しかった。よく考えられた設定だった。 2人が55歳であることを鮮明に表すエピソードもあった。第2回、2人の小中学校の同級生・春日部靖(仲村トオル)が数十年ぶりに夕日野団地に戻って来た。母親の恵子(島かおり)も一緒だ。 2人は春日部との再会後、恵子とも会う。恵子は2人のことをよく覚えていた。だが、息子の春日部のことは忘れてしまっていた。認知症だ。 恵子は春日部を他人だと思っているから、2人を前にして「お茶を入れてくださる?」と頼む。恵子は春日部を良い人と評したが、「夜も泊まっていくのが、ちょっとね」と困惑顔で付け加えた。春日部は苦笑するばかりだった。 春日部は会社を早期定年退職し、恵子の介護に専念していた。恵子が自分を忘れたのは仕事人間だったせいだという反省の念もあったからだろう。 仕事より親の介護を選ぶ50代半ばの人は実際に少なくない。これくらいの世代になると、何が一番大切かと思うかは人によって随分と違ってくる。仕事上の成功を目指す人ばかりが目立つ30代、40代とは異なる。 ノエチとなっちゃんを55歳にしたから、春日部親子の話が自然に加えられた。この世代を主人公とするドラマもまた少ないから、心を動かされた人は多いのではないか。