『団地のふたり』ヒットの理由は「共感」と「リアリティ」。主人公2人が55歳、築58年の団地の懐かしさ
ヒット作となった連続ドラマ『団地のふたり』(NHK BS、同BSP4K、日曜午後10時)が11月3日に最終回(第10回)を迎える。人気を集めた理由を、放送コラムニストの高堀冬彦氏が解説する。 【写真】炬燵で寄り添うノエチ(小泉今日子)となっちゃん(小林聡美) * * * * * * * ◆理想的な人間関係を描いた作品 主人公は2人。まず小泉今日子(58)が演じる太田野枝。あだ名はノエチで55歳。シングルで大学の非常勤講師をしているが、第9回に失職することが決まった。 もう1人は小林聡美(59)が扮する桜井奈津子。あだ名はなっちゃん。やはり55歳のシングルで売れないイラストレーターだ。2人は築58年の夕日野団地に住む幼なじみで、幼稚園時代から肉親のような関係が続いている。 人気の理由はまず観る側が共感しやすかったから。団地は多くの人にとって身近。住んでいる人、住んでいた人、同級生が暮らしていた人。団地と無縁の人のほうが少数派だろう。 団地と関わりのない人も近しく感じやすかった。濃厚な近所付き合いを描いたからである。それは相当数の人がかつて体験したり、経験中だったりするはずだ。 近所との濃い関係は時に不快な思いを伴うが、この作品はその描写が一切ない。登場する団地住民は善人ばかり。ちゃっかりしているが、心優しい高齢女性の佐久間絢子(由紀さおり)たちである。やはり高齢の東山徹生(ベンガル)は偏屈でうるさ型だが、自分なりに筋の通った生き方をしており、悪意の人ではない。 ノエチとなっちゃんもすこぶる好人物。この作品は魅力的な人たちと理想的な人間関係を描いているのである。だから観る側は夕日野団地に憧れる。ほかのヒットドラマと同じく、登場人物たちに心惹かれるから人気となった。団地を舞台にするだけでは支持が集まらない。 たとえば第8回、1人暮らし東山が熱中症によって住居内で倒れた。異変に気づき、ノエチとなっちゃんに急を報せたのは東山を大の苦手とする若い住民の鈴木沙耶香(田辺桃子)。その後、東山はノエチとなっちゃんによって病院へ緊急搬送された。見返りを一切求めない助け合いだった。現実には滅多にないことだろう。理想的な人間関係を表す一幕だった。 第1回でノエチとなっちゃんが佐久間から住居の網戸の張り替えを押し付けられた件もそう。当初の2人は面倒くさそうだったが、いざ作業が始まると、熱心に取り組んだ。佐久間も1人暮らしだから、放っておけないのである。2人はほかの高齢者住宅の網戸まで求めに応じて張り替えた。その分、高齢住民たちは2人をかわいがっている。 理想的な人間関係は観ていて気持ちがいい。実際の地域の結び付きは淡泊になる一方だから、なおさら心に響く。