にしおかすみこ、認知症の母がなくしたダウン症の姉の「障害者手帳」を作りに行く
捨てていい?
すると、「全くの別物さ。受けられる福祉やサービスも違うよ。いい?簡単に言うと障害者手帳には等級、受給者証には区分があります。おおまかに等級は1~7級だったかな、区分は1~6。等級は1が障がいが重い方で、7が軽い方。区分は逆で1が軽い方で、6が重い方になります。当然、重いほうが必要な支援量が多いです。ウチは現在も今後のためにも両方必要です。よろしいか?」と答えた。 マジでウソでしょう?! ちょっと! ホントに認知症? ときどき、です、ます口調で教師を気取ったふうが非常に鼻につくが、凄い。私は1回聞いただけではほぼ理解できない。パニックだ。 「そんなにわかってるなら自分で動いてよ!」と言ったら、 我関せずに戻り、能面のような顔でテレビを見る。クソババア。 再度ネットで調べたり、友人に教えてもらったり、市役所に電話したりして、 後日、福祉課に出向いた。受給者証の更新には、姉が障がい者であるという証明がいる。つまり障害者手帳の再交付が先だ。よし、私もだんだんわかってきた。 入口にいる女性職員さんに「障害者手帳を失くしてしまって、もう一度作りたいんですけど」と言うと、 「はい、ご案内致しますね。精神ですか? 身体ですか? 療育ですか?」 もうわからない。え?手帳に種類があるの?ダウン症はどれにあてはまるのか?療育が一番聞いたことのない言葉だったので、これは違うだろうと勝手に頭の中で外したら、これだった。知的障害が該当するそうだ。
警察にも…
ずっとこんな調子の私を福祉課の方々が懇切丁寧に教えてくださり、ひとつずつ進めていくことができた。当然、日数はかかる。 紛失物もあったので警察にも行き、仕事の合間にあれやこれやと動き、再びどれがどれの必要事項かわからなくなった頃、ついに受給者証、保険証、障害者手帳を再び手にすることができた。ああ、しんどい。これはもう私が管理しよう。 ひとまず解放されたことで機嫌の良かった私は母に「こういう手続きをお姉ちゃんが産まれたときから、全部ママはやってきたんだねえ。世の中の障がいのある人も、その家族の人たちもみんな普通にこなしてるんでしょ。すごいなあ」と言ったら、 「あん?何言ってんの?これっぽっちのことで?こんなの駆け出しの、入り口に過ぎないよ。鼻くそみたいなもんさ」 もうちょっと違う表現ないの?あと、私にありがとうくらい言ってよ。まあ、とにもかくにも一安心だ。 夜中。さあ寝るぞと自室のベッドに入ったところへ、ドンドンとノック音が鳴る。……まだ何か?母が息を弾ませ入ってきた。 「おーい!あったよー!見つけた!ママ、そんな大事なもん捨てたりしないから、おかしいと思ったよ~!あー良かった!解決だね!これであんたも自分の時間を過ごせるねえ」 ゲッ、今更?ウソでしょう?そんなオチいらない!……いや違う。手渡してくれたのは姉の古びた母子手帳だった。 探しているうちに、何を探しているかわからなくなったようだ。