「車を運転していたら、道が急に分からなくなった」61歳で軽度認知障害、でも希望はある 新薬レカネマブの適用対象、鍵となるのは早期の受診・診断
神奈川県の男性(61)は昨年11月、仕事で車を運転中、道が分からなくなった。おかしいと思って脳神経外科を受診し、検査を受けた。すると「数値が異常」と言われ、別の病院で改めて検査を受けたところ、軽度認知障害(MCI)と診断された。 ハブ毒成分が作用しアルツハイマー病の原因物質を分解 東北大と東京大のチームが発表 8月
61歳で認知症…今後の生活に不安はあるが、希望もある。新薬の開発が相次いでいるからだ。 認知症の一種、アルツハイマー病の新薬「レカネマブ(商品名レケンビ)」は、販売開始に向けた準備が進んでいる。ただ、この薬が投与できるのは「早期の人」だけ。理由は病の進行を完全に止めるわけではなく、一時的に抑制する効果が確認されているためだ。物忘れなどの症状が出なかった状態に戻す、いわゆる〝完治〟も期待できない。それでも進行を遅らせることができれば、より長く自我を保てる可能性が高まる。鍵は「早期診断」。どういう症状があれば、受診すべきなのか。(共同通信=村川実由紀) ▽薬の開発が希望になっている 61歳で軽度認知障害(MCI)と診断された男性が受診しようと思ったのは、少し前から「忘れやすくなっている」という自覚があったから。 システムエンジニアの仕事をしていたが、新型コロナウイルス感染症の流行でリモートワークが増加。その結果、他の人と直接やり取りをする機会が減った。以前は、少し気になることがあれば職場で周囲に確認することができた。しかし、自宅ではそういうわけにはいかない。そのことにストレスを感じていた。家族からも「こないだも言っていたでしょ」と言われることが増えていた。
そこへ道が分からなくなったことが重なり、ひょっとしたら、と受診を決めた。診断された現在はこう思っている。「このままの状態で悪くならなければ良いと思っている。だから、薬の開発が希望にはなっている」 ▽軽度認知障害と軽度のアルツハイマー病 記憶力や判断能力に影響が出る認知症のうち、6~7割を占めるのがアルツハイマー病だ。アルツハイマー病の人の脳内には「アミロイドベータ」や「タウ」と呼ばれるタンパク質が蓄積している様子がみられ、次第に神経細胞が減っていく。多くの場合、最初は物忘れなどの症状が出て、徐々に日常生活に支障が出るようになる。診断の際は問診や脳画像、脳脊髄液の検査などを行う。 新薬のレカネマブは人の体の免疫の働きを応用した「抗体薬」で、神経細胞を傷つけている可能性があるアミロイドベータにくっついて除去する働きが期待されている。2週間に1回、約1時間かけて点滴で投与する。 臨床試験(治験)では症状が進むのを約27%抑制する効果が確認された。その一方で脳の浮腫や出血といった副作用が一定の割合で出たことも報告されている。このため、使用の条件として、リスクについて十分に説明ができるような医師の下で同意を得ることが前提となっている。