「車を運転していたら、道が急に分からなくなった」61歳で軽度認知障害、でも希望はある 新薬レカネマブの適用対象、鍵となるのは早期の受診・診断
ネックの一つは値段だ。既に承認されたアメリカでは、標準的な価格が年2万6500ドル(約390万円)。日本でも高額になる見通しで、個人の負担や医療財政への影響を心配する声が上がっている。 この薬は日本の製薬会社のエーザイと米国のバイオジェンが共同開発し、9月に日本政府が製造販売を認めた。現在は、保険適用するかどうかや薬の価格などについて、検討が行われている。進捗状況によっては、早ければ年内にも販売が開始される可能性がある。 ▽受診すべき症状とは? 投与の対象は、アミロイドベータが脳内に蓄積した軽度のアルツハイマー病の人と、その前段階の軽度認知障害(MCI)の人だ。症状が進行してしまった場合には使えない。このため、どうしても早期の受診・診断が重要になる。 では、どんな症状があれば受診すべきか。 診断に詳しい東京都健康長寿医療センターの井原涼子・脳神経内科医長はこう説明する。「物忘れが繰り返しみられる場合は受診してほしい」
高齢になれば物忘れは当たり前と思い込み、医療機関に行かない人は多い。それでも、一度受診することで、たとえレカネマブの投与対象にならなくても利点は多い。 従来から使われる薬の投与につながったり、症状に適した生活環境を整えるきっかけにもなったりするためだ。 神奈川県の61歳の男性にとっても、心の支えはレカネマブだけではないという。家族の勧めで地域の相談会に行き、認知機能に不安がある人をサポートしている人と知り合うことができた。その結果、イベントに参加したり、ゴルフに行こうと誘われたりするようになった。「声をかけてくれる存在は貴重でありがたい。きっかけをくれた家族、出会いに感謝しています」 ▽進む認知症との「共生」 高齢化に伴い、認知症を抱える人は増えている。2040年には、65歳以上の4人に1人、約950万人に達すると推計されている。こうした状況を背景に、認知症との共生に向けた動きが進んでいる。