尹大統領、訴追不可避で方針転換 弾劾・逮捕受け入れ法廷闘争へ 混乱長期化必至か
【ソウル=時吉達也】韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は12日の国民向け談話を通じ、与党側と協議してきた早期辞任に応じない方針に転じた。世論の急速な悪化で弾劾訴追が確実な情勢となる中、弾劾・刑事裁判の回避を事実上断念。法律家出身として法廷闘争に活路を見いだす構えで、混乱長期化は避けられない見通しだ。 疲弊した面持ちで2分足らずの謝罪を済ませ、足早に壇上を去った7日の談話から一転。尹氏は29分にわたり「尹錫悦節」を力強く展開した。 治安・スパイ対策などの予算編成に応じない野党を「反国家勢力」と呼び、弾劾を求め「狂った剣舞」を踊っていると非難。戒厳宣布はひとえに「自由民主主義を守る」目的だったとし「熱い真心だけは信じてほしい」と言葉に力を込めた。 尹氏は前回7日の弾劾訴追案採決にあたり、可決に傾いた与党議員らに再考を促す目的で、謝罪談話を直前に発表。「秩序ある早期退陣」に応じる条件で、与党議員のほぼ全員が採決欠席に回り、可決を回避した。 しかし、その後も逆風は収まらず、戒厳軍指揮官は国会進入の際に、尹氏が「扉を壊し議員を引っ張り出せ」と直接指示したと証言。警察当局が大統領府の家宅捜索を試みるなど捜査の包囲網も急速に狭まり、事態の沈静化を優先させる方針の見直しを迫られた。 この日の談話で、尹氏は戒厳宣布が恩赦や外交と同じ大統領の「高度の統治行為」にあたり、司法判断を受ける対象にはないと強調。弾劾裁判や捜査に対して違法行為はなかったとの主張を展開する方針で、韓国メディアによると、弁護人の選任も進んでいるという。 また、捜査の展開次第では、今後さらなる混乱も予想される。韓国憲法は「大統領が欠位や事故によって職務を遂行できない場合」に首相などが職務を代行すると規定する。ただ、大統領の逮捕が「事故」にあたるかは解釈が分かれており、拘置所内の職務継続が可能との解釈もある。