【皇室コラム】「その時そこにエピソードが」第25回 <関東大震災とベルギーから贈られた絵画と中禅寺湖畔の別荘>
■中禅寺湖畔に建つベルギー大使館の別荘
栃木県の奥日光にある中禅寺湖。湖面の向こうに男体山を望む国立公園の絶景の地に、ヨーロッパの大使館の別荘群があります。イタリア、イギリス、フランス、ベルギー。イタリアとイギリスは栃木県に寄贈されて公開され、フランスとベルギーは今も大使館が管理する別荘です。 ベルギー大使館の別荘は、駐日ベルギー大使館のホームページで「日本におけるベルギーの外交活動を説明する上で欠かすことのできない」と紹介されています。その経緯もバッソンピエール大使が『回想録』に記しています。 「大倉男爵は、私に、前年に亡くなった尊父が60年近くもベルギーと重要な商業上の取引きを行なっていたので、この関係を記念して、アルベール王に別荘をひとつ提供し、駐日ベルギー大使館の夏期別荘として使ってもらうことにしたと語った。男爵は、フランス大使の別荘に近い、中禅寺湖畔の実によい場所だと思うがどう思うか、と私にたずねた。アルベール王およびベルギー政府の同意を確かめたあと私は、この大倉男爵の寛大な申し出を受けた」
「大倉男爵」とは、東京の「ホテルオークラ」の創業者で、札幌五輪のジャンプ競技で使われた「大倉山ジャンプ競技場」を造ったことで知られる大倉喜七郎。「尊父」は、武器商人として事業を一代で発展させ、「大倉集古館」「大倉土木組(現・大成建設)」などの創設者として知られる大倉喜八郎です。 経済使節団が来日した折、喜八郎は隅田川のほとりにある東京の邸宅で一行をもてなしています。バッソンピエール大使の『回想録』には、大倉はすぐれた商才があり、新政府軍に武器を売って財産をつくったこと、長くベルギーと取引があり、使節団との間で「相当突っこんだ意見の交換をおこなった」とも記されています。
■外交官たちが愛した中禅寺湖
別荘はなぜ中禅寺湖畔に集まっているのでしょう。その事情を探っていくと、〝夏は外務省が日光に移る〟と言われるほど、外国人に人気の避暑地だったことを知りました。