甲南女子大・柴野ちりさ、全日本へのラストチャンス フィギュアスケートの楽しさが伝わる演技を
全日本だけの特別プログラムを準備
柴野が全日本に出たい理由はもう一つある。実は、全日本のために新たなショートプログラム(SP)を用意しているのだ。 「昨年3月頃友達に教えてもらってすごくグサッときて、『ラストシーズンに使いたい』と温めてきた」という曲は、映画「ラーゲリより愛を込めて」の主題歌で、Mrs. GREEN APPLEの「Soranji」。「メッセージ性の強い歌詞で、自分にしかできないようなプログラムになるんじゃないかなって思ったし、とにかく曲がすごい良くて、素直に滑りたいって思いました」 今季の試合はすべて「Soranji」で、という選択肢もあったが、迷いに迷ってSPは「グラディエーター」に。「Soranji」は全日本と国民スポーツ大会だけで滑る、ごほうびのような特別プログラムとして作った。今は2つのSPを並行して練習している。 「昔はジャンプの練習が好きで、演技中は無表情だったんですけど。今はステップシークエンスや振り付けを踊ることの方が楽しいですね。先生 (笹原コーチ)の振り付けが個性的で好みだからっていうのはあるかも」とほほえむ。その変化も、一度スケートから離れたおかげかもしれない。 「休んだ5年分を取り返すのに5倍頑張らないとって思ってたし、休まずにやっとけばよかったなと思ったことも何度もあるけど、一度離れたからこそ、『私、スケート以外に好きなことないんじゃない?』って気づけて。休む前はスケートが嫌で、練習も『あとまだ何分もある~』って思ってたくらい。でも今は楽しいし、時間が足りない、もっと滑りたいって思います」 残りの試合は、全日本を入れてもあと4試合しかない。卒業後もスケートに関わる道を考えているというが、それでも「すごく寂しい」という。 「先生から、自分が現役のときは『西日本の直前は、これ以上することがないってくらい頑張ったから何も不安はなかった』っていう話を聞いて、『ああ、自分も不安がなくなるぐらい練習しよう』と思ってやってます。私、気持ちの面でミスっちゃうことが結構あるから」 試合では緊張するタイプだが、笹原コーチには「何百人に見られることも引退したらなくなるし、緊張も楽しまないと、って自分のときは思った」とアドバイスされた。「先生と生徒というより、同じ目線で一緒に頑張れる関係性」というが、自らの経験を共有し導いてくれる存在だ。 全日本に4度出場した笹原コーチの背中を追う柴野。笹原コーチの現役ラストシーズンも今季と同じように、西日本は日本ガイシアリーナ、全日本は東和薬品RACTABドームで、良いイメージを持って試合に臨める材料になっている。 西日本で目指すのは、ジャンプのミスなく、スピン、ステップもすべて最高のレベル4の演技だ。「悔いがないように全力でやり切りたいです。点数も取りたいけど、演技を楽しめないとそれも悔いが残ると思うので。スケートが好きっていう気持ちは誰にも負けないし、自信があるので、西日本ではそれを伝えたいです」 笹原コーチも、「応援が力になるタイプの選手で、滑る喜びが演技に出ている。そこが彼女の取りえだし、努力が実を結ぶということをぜひ全日本の舞台でたくさんの人に見てもらいたい」と背中を押す。 大学のゼミの先生や、体のケアをする治療院の先生も応援してくれている。トレーナーは西日本への帯同を頼むと快く引き受けてくれた。たくさんの応援が柴野を支えている。 応援を力に変え、スケートの楽しさが伝わる演技ができれば、同時に結果もついてくるだろう。緊張を味方につけて最高の演技ができるよう、西日本では大きな声援を送りたい。
藤井七菜