【2024年ベストバイ】繊研新聞 小笠原拓郎が今年買って良かったモノ
F:ショーのあとバックステージに入り、ショーの感想を何も言わずテーマを聞いてくるメディアの人にクレームを入れているデザイナーもいましたね。 小笠原:昔はショーが終わった後にデザイナーにテーマを聞くなんて失礼という風潮があったんですよ。その点コム デ ギャルソンは囲み取材もなければリリースも一言書いてあるだけですよね。他のブランドは長文のリリースを用意していますが。 F:川久保さんはジャーナリストに対してちゃんと敬意を払ってくれているんでしょうね。 小笠原:そう思います。今の若い人たちは、間違ったことを書くことを恐れているんでしょうけど、極端な話、別にデザイナーが意図したテーマはこれだって明らかにしなくてもいいと思う。そのデザイナーはそういう意図で作ったかもしれないけど、見る側は全然違う風に捉えられたと、それを表現してぶつけ合うことでデザイナーもいろんなことを考えるし、文化として議論が起こってくる。だから、思考停止の象徴である囲み取材はやめた方がいいんじゃないかと思うわけです。
チェザレ・アットリーニのビスポークスーツ
F:最後は大物ですね。ナポリのサルトリアブランド「チェザレ・アットリーニ(CESARE ATTOLINI)」のビスポークスーツ。 小笠原:ナポリの工場まで取材に行ったことがあり、マッシミリアーノ・アットリーニ(Massimiliano Attolini)社長は30年来の友人なんですが、ジャパン社を作るということで相談を受けていたんです。それで今春、チェザレ・アットリーニジャパンを設立し、2年以内に都内に直営店をオープンする計画を発表しました。ビスポークのことをイタリア語でスミズーラと言うんですが、彼に「そろそろスミズーラする?」と提案され、じゃあ作ってみるかとなったんです。ポイントとしては、普通に作ったらクラシックになってしまうから、パンツの裾幅を25cmにしてくれとお願いして。 F:かなり太めでオーダーしたんですね。 小笠原:イタリアのクラシックな感じにはしたくなくて。70sのイヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)もそうだけど、太くドーンと落ちたシルエットでヴァンズのスニーカーに合わせたいなと。仕立ても生地もすごく良いものを、自分のスタイルで着こなしたくて、この太さにしました。 F:ビスポークのスーツは過去に何度か作られているんですか? 小笠原:ミラノやナポリで、若い頃に何回も作っています。 F:サヴィル・ロウ※で作ったことはないんですね。 ※イギリス・ロンドン中心部のメイフェアにある通りの名前で、オーダーメイドの名門高級紳士服店が集中していることで有名。 小笠原:作りたいと思っていたんですけど、当時はポンドがすごく高くてね。当時のイタリアの通貨はユーロではなくリラで、為替の関係でとても安かったんですよ。 F:今だととんでもない金額になってしまいますもんね。このウールの素材は何を基準に選んだんですか? 小笠原:生地見本から選びました。自分のイメージにあったのがイギリスのフォックスブラザーズ(Fox Brothers)のフランネルだったんですが、「ごめん、フォックスは在庫がないんだ」と言われてしまって。だけどすごいよく似た生地を探してきてくれたんです。実際に触ったらフォックスよりもこっちの方が柔らかくていいなと。 F:このふわふわした素材のスーツとヴァンズを合わせるのは確かに格好良いですね。でもそうなると中にシャツは着ない? 小笠原:着ませんね。採寸時、マッシミリアーノにシャツを着てと言われましたが、Tシャツかニットとしか合わせないからと伝え、Tシャツでメイド トゥ メジャーをしてもらいました。 F:先ほど筋トレの話が出ましたが、体型を維持しないとですね(笑)。 小笠原:買った後も、生地を出してウエストサイズなどの調整ができるのがビスポークの良さではありますが、流石に大きくなりすぎるとどうしようもありませんからね(笑)。でも、ビスポークスーツを買うと体型維持の意識が持てていいですよ。 F:「一度はビスポークを」とは思うんですが、価格のところでいつも断念してしまいます。 小笠原:でも、昨今の値上げブームを見ているとむしろお買い得だと思いますよ。どのブランドもしれっと値上げしていますが、「このクオリティでこんな高いの?」と思ってしまうものが正直多い。それだったら完璧なハンドメイドのテーラリングで作った方が、インポートブランドのスーツよりも満足度が高いと思います。