【詳細データテスト】アストン・マーティン・ヴァンテージ 速さと快適性を高次元で両立 魅力的な改良
テストコース ★★★★★★★★☆☆
現状、ヴァンテージは基本的に、純粋なロードカーとGT3レースカーがあり、その間を埋めるような存在はない。われわれは、アストンが遠からず、ポルシェ911GT3対抗モデルを投入するとみているが。 今のところ、今回の標準モデルでもサーキット走行は楽しい。ESPとトラクションコントロールを完全に切れば、おそらくは新車で買える中でもっともスロットルでのアジャストが効くクルマになる。多少の荷重移動で、ドラマティックなテールスライドに持ち込めない速度域はどうやらなさそうだ。 みごとなのは、後輪の滑り出しが素早いわりには、それを捉えてバランスを取るのはとくに難しくはないこと。そこは、よくできた点だ。もちろん、新しいマルチステージ式トラクションコントロールを使うこともできるし、ウェットサーキットではそれが真価を発揮する。セッティングや介入のレベルによって明らかに差があるだけでなく、その介入が自然で、ヨーが小さくても大きくても、走りの勢いを衰えさせずに、自信を持ってドライブさせてくれる。 Rの小さいコーナーを抜ける際には、e-デフが、ロックアップして81.6kg-mものトルクを抑えようとするにつれて、奇妙で目立つ音を出す。われわれは好みだ。 しかし最終的に、今回のテスト車はサーキットマシンではなく、注意すべき点がある。まず、ブレーキは強いが、速度調整をしようとすると精密さが足りない。次に、ロードカーとしては分別ある微かなアンダーステア傾向が、楽なターンインを妨げる。さらに、ちょっと重すぎる。ただし、ワイルドで楽しい。
操舵/安定性 ★★★★★★★★★☆
ヴァンテージはトランスアクスルレイアウトにより、完璧に50:50の前後重量配分を実現した。フロントエンジンのパフォーマンスカーとしては珍しい。それは、誰の尺度でも非常に優れているといえるハンドリングの基礎となっている。新型ヴァンテージは、フロントアクスルに自信を持って頼ることができ、テールは比較的簡単に流すことができる。どちらも気分次第だ。 従来モデルにはなかったニュートラルさがあり、改善された構造部の剛性が利益をもたらしているのは明らかだ。従来モデルにあったスロットルでのアジャスト性はそのままに、ときとしてトゲトゲしく、予想できずにブレークする挙動はきわめてわずかに抑えた。自由に操れるクルマになっている。 そして、楽しく走れるはずだ。フェラーリ・ローマほどターンインは楽ではなく、ポルシェ911ターボほどアキュラシーは高くないが、グリップが効いて直観的な方向変換に関しては、どちらのライバルにも負けないほどなめらかだ。アジリティも不足はない。パワートレインは、ショート化されたファイナルによって元気さが増している。 固定レシオのステアリングは、ギア比が13.1:1から12.8:1へとわずかに変更したが、違いがはっきりわかる。この変更を活用するのに必要なコントロールをすべてもたらすのが、新たなビルシュタインDTXダンパーだ。かなりの荷重移動を、ボディがステアリング入力とシンクロしなくなることはめったにないようなレベルのコントロールで、しなやかに支える。その結果、生まれるのは自信だ。このクルマは速く走りたがり、ドライバーにそれを実現させようとしてくれる。 どの程度が昔ながらのエンジニアリングによるもので、それを6D-IDUと銘打たれた新たなダイナミクスのコントローラーがどの程度支えているのか、気になるところだ。e-デフやトルクベクタリング、ABSやESPは全体に配置されたセンサーや、6軸加速度センサーから常に情報を得ている。何が起きても、ヴァンテージにはパワーをスムースかつ見たところ有機的にパワーを路面へ伝える。 もちろん、思い切り乱暴に走らせれば、ヴァンテージはそれに応えてくれる。しかし、ロードカーとしての安定感と速さのポテンシャルは、これまでのアストンにはなかったものだ。 気になるのは、ステアリング越しのフィードバックだ。もう少し精度が高くてもいいのではないだろうか。また、フェラーリ812スーパーファストのように、ダッシュボード下まで食い込むような位置にエンジンが積まれていたら、ターンインで瞬間的にノーズヘビーからくる慣性を感じさせることがなくなっていたかもしれない。