トレード可能性の消えたダルビッシュ 焦点はオフのFA200億円攻防
ダルビッシュを簡単に手放せないレンジャーズならではの事情もある。 知られるように、レンジャーズの本拠地は打者に有利な球場だ。ゆえに、オールスタークラスの投手をフリーエージェントで獲得する上で、分が悪い。ダルビッシュも今年は本拠地と相性が悪く、11試合に先発して、被打率が.231。被本塁打は11本。一方敵地では8試合に先発し、被打率は.191、被本塁打は4本。ごく一部のデータにもそれが現れている。よってチームには長年に渡ってエースが不在だった。そんな中でダルビッシュはついに獲得したエースだったのである。そんな選手を手放せば、代わりを見つけるのに、また、15年にコール・ハメルズをフィリーズから獲得したときのように、若手有望選手を一気に手放すといった犠牲を強いられる。 一方で発言の後半部分ーー「契約をするのは全く違う話。ビジネスなので」と話したのは、それがお金を意味しているのだとしたら、レンジャーズにとっては好都合だ。レンジャーズの懐事情を探る前に、そもそもダルビッシュの相場はどの程度なのか。まずは、トップクラスの投手の契約総額を以下にまとめた。 ※ カッコ内は 契約チーム/契約した年 ・ デビッド・プライス(レッドソックス/2015) 7年総額2億1700万ドル(約238億円) ・ ザック・グリンキー(ダイヤモンドバックス/2015) 6年総額2億650万ドル(約227億円) ・ クレイトン・カーショウ(ドジャース/2014) 7年総額2億1500万ドル(約237億円) ・ マックス・シャーザー(ナショナルズ/2015) 7年総額2億1000万ドル(約231億円) ・ ジョン・レスター(カブス/2014) 6年総額1億5500万ドル(約170億円) ・ ジャスティン・バーランダー(タイガース/2013) 7年総額1億8000万ドル(約198億円) ・ ステファン・ストラスバーグ(ナショナルズ/2016) 7年総額1億7500万ドル(約193億円) 今や、トップは平均年俸が3000万ドル(約33億円)の時代。ダルビッシュがフリーエージェントとなり、マネーゲームになればこの額が基準になることは間違いない。仮に6年総額1億8000万ドル(約198億円)という数字が目安になったとしよう。レンジャーズがどう出るかだが、おそらく問題はない。来年いっぱいで、コール・ハメルズ(年俸2350万ドル、約22億円)とエイドリアン・ベルトレ(年俸1800万ドル、約20億円))の契約が切れる。ハメルズはチームを離れるのではないか。彼もレンジャーズの本拠地とは相性がよくない。ベルトレは引退をほのめかしている。となると、再来年以降、資金に余裕ができる。不良債権化している秋信守の契約(年俸2100万ドル、約23億円)も2020年に切れるので、ダルビッシュとは徐々に年俸が上がるバルーン契約を結べば、無理はない。 それよりも、レンジャーズが恐れているとしたら、ビジネスという言葉の真意の方だろう。ダルシッビュがお金を重視するとは、少々考えづらい。 おそらく彼が言いたいのは、住みやすさ、子供達の学校、球場の施設、球団はどんな方向性を持っているかといった、総合的な要素であるはず。これまでダルビッシュは自らチームを選んだことがない。日本ハムからはドラフトされ、レンジャーズにはポスティング制度を利用して移籍した。よって今回、相当慎重にそれぞれのチームの話を聞き、納得のいく形で、チームを選ぶはず。ビジネスとはやはりトータルでの評価。となるとそのことは、レンジャーズにとって有利にも不利にも働きうる。ダルビッシュはすべてを見てきたのである。 (文責・丹羽政善/米国在住スポーツライター)