松田龍平が「東京」という街に向ける意外な視線…「中国語の警察通訳人」を演じて見えてきたもの
警察通訳人の必要性と責任の重さ
──外国人がどんどん増え続けている現在、『東京サラダボウル』は、タイムリーなエンターテインメント作品であると同時に、複雑かつデリケートな要素もある社会派ドラマです。さまざまなテーマを含んだ本作を今の時代に作ることの意義について、どう感じていますか? 松田「有木野は警察通訳人という役どころですが、言葉が通じないと、誤解が生まれやすいし、本当に悪い人が誰なのかも分からない。“言葉の壁”というのも、本作のテーマのひとつだと僕は思っていて。それこそ、みんなが奈緒さんみたいにフランクで、ハートでコミュニケーションできるタイプならいいんだけど、わりと日本人って、そうじゃない人が多いから。言葉の壁のせいで、コミュニケーションをあきらめちゃったり、ネガティブにとらえたり、誤解が生じることがあったり……でもそれって、もったいないですよね。 そもそも言葉の壁って、外国語だけにかぎらなくて。たとえばこうやってインタビューを受けていても、僕が言っていることを直接耳で聞くのと、1回、取材者のフィルターを通して、文字として書き出されるものって、やっぱり変わってきちゃうこともあるし。それって、通訳にも同じことが言えるんですよ。 有木野が警察で外国人の取調べのときにやっている逐次通訳は、相づちや言いよどみも含めて、一言一句そのまま訳すという特殊な通訳なんですけど、本当にちょっとしたことが大きな違いや誤解を生んだりする。そういうつもりで言ったんじゃない、っていうことは、たぶん日常茶飯事に起きていて、それが当事者の人生を大きく変えてしまうこともある。 そういうリアルを考えると、逐次通訳をする警察通訳人って、すごく必要な職業だけど、めちゃくちゃ責任が重い、大変な仕事だなと思って。外国人が急速に増えている現状に対し、警察通訳人の数はたぶん全然足りていない。だから、このドラマをきっかけに、警察通訳人を目指す人が増えたらいいなとも思っていて。こういう仕事があること自体を知らない人も多いでしょうからね」 奈緒「私自身、この作品を通して、新しく知ったことが本当にたくさんあります。警視庁に通訳センターがあることも、国際捜査係の警察官と通訳人がバディになるというシステム自体も今回、初めて知って。もちろん、今までの自分の無知というものが恐ろしくなる瞬間もあるんですけど……何かひとつ知ることで、明日の自分が、今日の自分よりも確実に、半歩でも優しい方向に向かえるんじゃないかな、優しい未来につながるんじゃないかなと私は思っているので。まずはみなさんに、このドラマでいろんなことを知っていただけるということに大きな意味があると思います。 あと、個人的には、自由に受け取っていただきたいとも思いつつ、この作品に関しては、作っている私たちが、どこかで一定の正しさみたいなものを持って伝えないといけないなという責任感も強く感じています。そういった作品に今回携わらせていただいたことは、自分自身を見つめ直すきっかけにもなっていますね」