《福井15歳少女顔面めった刺し事件》殺人罪で7年間服役した男性(59)の再審がついに決定 検察が隠していた“驚きの証拠”とは…
暴力も振るわれた取り調べに屈しなかった前川さんは「智子さんなど知らない。会ったこともない」と一貫して犯行を否認し自白調書も作らせなかった。 1990年9月、一審の福井地裁は(1)目撃証言は信用できない(2)毛髪鑑定は指紋のような絶対的なものではない、という2点から前川さんを無罪とした。 知人らの証言の信用性を否定した理由は(1)彼らがいずれも覚せい剤やシンナー事案等の犯罪歴や非行歴があり捜査官の意向に反論しにくい(2)供述が事件から7、8か月経過している(3)重要な点で変遷している、などだった。 実際、一審公判中の88年9月頃、Nは前川さんの弁護人の吉村悟弁護士を訪れて、「事件の夜は前川に会っていない。それを言っても警察は『それは勘違いだ』と言って受け入れられなかった。2日間、抵抗したが押し切られた」と告白していた。NもNを支える他の証人もこれを法廷で証言し一審で認められていた。 吉村弁護士が面談したI子は「警察に『Aが言ってるから間違いない』と言われて、記憶もないのに調書作成に応じてしまった」と打ち明けた。さらに、留置中のAが「殺人事件のことが俺の情報で逮捕できれば、俺は減刑してもらえるから頼むぞ」と書いてI子に送った手紙も見せていた。
高裁で逆転有罪となり、満期で服役することに
ところが1995年2月、控訴審で名古屋高裁金沢支部の小島裕史裁判長は「知人らの証言は十分信用できる」として逆転有罪とし、シンナー吸引による心神耗弱を認めて懲役7年とした。「自分の量刑などへの配慮を得るために、供述した疑いがある」と一審が認定した元暴力団員の証言については「調書が作成された時点で覚醒剤取締法違反容疑の取り調べは終了していた」とし、供述の変遷も「信用性を損なうとまでは言えない」とした。 これが97年に最高裁で確定し、前川さんは満期服役した。 前川さんは出所後に再審請求し、2011年に名古屋高裁金沢支部の伊藤新一郎裁判長が「各証言に疑問がある」と再審開始を決定したが、検察の異議申し立てで2013年に同じ名古屋高裁の志田洋裁判長が決定を取り消し、前川さんが第2次の請求を起こしていた。 そしてことし10月23日午前10時、名古屋高裁金沢支部。正門で筆者も支援者らと待ち受けていた。女性弁護士が庁舎からゆっくり歩いて出てくるので「駄目だったのか」と思ったら再審開始決定の垂れ幕を広げた。 「ありがとうございました。これからも続きますんで。今日はひとつの区切りになります」 拍手と歓声の中、裁判所から両手を突き上げて現れた長身の前川さんは中学時代、バスケットボールのエースだった。逮捕から37年以上が経っていた。 再審開始を決定した山田耕司裁判長は「知人供述に警察の誘導の疑いがある」などとし、「前川さんと現場付近に行き、前川さんの服や手に血がついているのを見た」というAの証言の信用性を否定した。 さらにAの証言について、決定は「供述を取引材料に自らの減刑や保釈などの利益を図ろうとする態度が顕著」とし「確定判決はこうした危険性に注意を払わなかった」と指弾した。