【もはや内輪の論理は通用しない】影響力が強い「物言う株主」アクティビストと向き合う日本企業が取るべき選択
「サード・ポイント」対ソニー
これといった不祥事がなくても、アクティビストは狙いを定めて経営陣に対して独自の要求を主張してくる。米国の代表的なアクティビスト「サード・ポイント」が2013年ごろからソニーに仕掛けてきたケースをみてみよう。「サード・ポイント」はダニエル・ローブ氏が1995年に設立したヘッジファンドで、日本ではソニーのほか、セブン&アイ・ホールディングスやIHIなどにも投資してきた。米国ではインテル株を取得して経営方針の転換を求めたほか、この数年はアマゾン・ドット・コムなどハイテク株にも投資先を拡大しているようだ。 「サード・ポイント」は2013年以降にソニー株を買増して一時は筆頭株主になり、経営陣に対してエンターテインメントや半導体部門の分離独立を強く要求し続けてきた。これに対して平井一夫CEOは一貫して「サード・ポイント」の要求を拒否、自社の路線を貫いた。結果的には、エンターテインメントと半導体の両部門が業績に大きく寄与して株価もアップした。 市場筋では「サード・ポイント」は株価上昇に満足してソニー株をすべて売却して、かなりの値上がり益を得たのではないかとみている。ソニーの事例にみられるように、アクティビストは狙いを定めて買った(投資した)以上は、株価が上がって投資利益が出るまでは、株を手離さないことが多い。 アクティビストが投資した企業の株価は上がることが多い。アクティビストが株を買ったという情報が流れると、イベント・ドリブンを狙う機関投資家は何かが起きるという思惑から追随して買うこともあり、個人を含む一般投資家も連想買いすることもあるという。最近では一般投資家もアクティビストの情報をできるだけ早く入手しようとし、株価の面でもその存在は無視できなくなりつつある。
「環境アクティビスト」が登場
この数年、注目されているのが気候変動に関する企業の取り組みで、こうした面からの主張を突き付けてくるアクティビストに出てきている。三菱UFJフィナンシャル・グループの今年の株主総会では、環境問題に絞った提案をするNGO団体の「環境アクティビスト」が登場してきた。この団体は三菱UFJに対して、2020年以降の地球温暖化対策の国際的な枠組みを定めた「パリ協定」の目的に沿った投融資の指標や目標を含む経営戦略を策定し開示するよう、定款を求める株主提案をしてきた。 この議案は反対多数で否決されたが、賛成票は23%を集めた。三菱UFJ側は、この総会前の4月の段階で、日本のメガ銀行では初めてとなる「カーボンニュートラル宣言」を行い、「脱炭素化」に向けての方針を明らかにしていた。にもかかわらず、このNGOは三菱UFJに対し株主提案を継続した。会社側は今回の提案を踏まえて「カーボンニュートラル宣言」で発表した方針を進めていくとしているが、これだけの票を集めたことで、今後の環境面での対応が促進されることになりそうだ。日本企業は石炭火力発電などの問題では、欧州などと比べて対応が遅れている面があるだけに、今後は「環境アクティビスト」の動向も注視する必要がある。 このほか、昨年までの不動産価格の上昇から、不動産を多く所有している上場会社に対するアクティビストの要求も増えている。具体的には含み益のある不動産を売却して株主にその利益を還元せよというものだ。 「物言う株主」からの株主提案は年々増えており、企業コンサルティングのアイ・アールジャパンによると、20年は26件で、16年に比べ4倍以上も増えており、20年6月の株主総会では、300社以上の議案が2割以上の反対を受けたとしている。