ブランクーシの彫刻とアトリエに隠された秘密|青野尚子の今週末見るべきアート
《空間の鳥》などで知られる彫刻家、コンスタンティン・ブランクーシ。日本の美術館では初めての包括的な個展が東京・京橋の〈アーティゾン美術館〉で開かれています。彫刻、写真、映像に至るまで、彼の足跡が辿れる展覧会です。 【フォトギャラリーを見る】 コンスタンティン・ブランクーシは1876年、ルーマニアのホビツァという町で生まれた。首都ブカレストで学んだ後1904年にパリに出て、短い間ロダンの助手を務める。独立後はアフリカ彫刻などの要素を巧みに取り入れた作品で独自の道を歩んだ。この展覧会は初期から晩年までをたどる日本の美術館では初めての機会になる。形態にも素材にもさまざまな可能性を追求した彼の探究心が伺える。
展覧会タイトルにある「本質」という言葉は《空間の鳥》に関してブランクーシが語った「飛翔の本質を表現したい」という文章を思わせる。が、「他のテーマについてもブランクーシのアプローチの仕方は同様かと思います」と展覧会を担当したアーティゾン美術館の学芸員、島本英明さんはいう。 「“本質”という言葉はブランクーシの作品全体に敷衍(ふえん)できるものではないかと考えて、“本質を象る”という展覧会タイトルをつけました」(島本さん)
展覧会は初期の具象的な彫像から始まり、次に《接吻》《眠れるミューズII》など抽象化が進んだ時期の彫刻が紹介される。彼自身が撮影した自作の彫刻やアトリエの写真、セルフ・ポートレイト、交流のあったマルセル・デュシャンやモディリアーニ、一時期、助手を務めていたイサム・ノグチなどアーティストたちの作品も登場する。
今回の展覧会ではブランクーシのアトリエの光が実際に感じられるスペースが設けられている。アトリエに実際にあった大きな天窓に見立てて展示室の天井近くに特設の面照明を設置し、フラットな光が斜め方向に降り注ぐ空間を作り出した。
「美術館では作品にスポットライトをあてたりすることがありますが、ブランクーシはそういった光のもとで彫刻を見ていたわけではありません。ここでは空間を同じ質で満たす光を目指しました。光は一方向からあたるので反対側には影ができますが、これも彼の作品を自然な形で見せたいと考えた結果です」(島本さん)