1本の音楽とデモテープの話/執筆:二名敦子
たとえば フュージョンバンド、カシオペアのギタリスト野呂一生さん、 ベーシスト桜井哲夫さん(当時) お二方のデモ音源。 ドラム、ベース、キーボード、ギターの伴奏がきちんとオンラインで録音されており アレンジも手の込んだものでした。 そのままレコードにしてもいいほどです。 今みたいにPCで手軽に誰でもトラックを作れる時代ではなかったので その完成度の高さにびっくり。 さすがカシオペア! インストゥルメンタルのアレンジも込みで楽曲。 そんな彼らのメッセージが伝わるデモテープでした。
逆のタイプは安部恭弘さんと村田和人さんからのカセット。 お二人にはたくさんの曲を提供していただきました。 先日ライブで久しぶりに歌った「ブギー・ボード」は安部さんの曲ですが、 デモ音源はキーボードと歌だけの弾き語り。 甘い歌声とジャジーなコード進行。 歌詞を付けレコーディングされた「ブギー・ボード」とは一味違う 大人の魅力あふれるテイクでした。 そして村田さんのデモはギターの弾き語り。 普通、デモテープは歌詞なしのハミングや楽器でメロディを入れることが多いのですが 村田さんの場合、いつもちょっとデタラメっぽい?英語で歌っています。 サビの部分とかは、その英語の歌詞がメロディにすごくハマっていて。 それ以外考えられなくなり、そのまま歌詞になることも度々。 私のアルバムに入っている「ちょっと泣きたいWednesday」「April Shadow」「ムーンライトママ」の3曲は 村田さんの歌うデモテープの英語の歌詞をそのまま使わせてもらっています。 「細かいパート、歌い回しは歌いやすいように変えてくれていいよ!」 新曲をもらうたび送られるその言葉は 勝手な解釈で歌いがちの私にとって とてもありがたいものでした。
最近ライブでよく歌っている「Sunset Cruising」の作曲者、岩沢二弓さん(ブレッド&バター)のバンド演奏のデモテープ。 みんなでワイワイ録音したんだろうなー、ハッピーオーラが溢れていました。 「二人のWednesday」は歌詞がつく前から 切なく甘い恋が浮かぶメロディ。 加藤和彦さんご本人の優しい歌声も相まって、キュンとさせられます。 いろんなアーティストの方からいただいた たくさんのデモテープ。 それぞれの思いが込められた1本の音楽。 アナログ音は、その向こう側にいる人たちの温もりも伝えてくれました。 カセットテープに録音された音楽を想うと お白湯を飲んだように心が温かくなります。 次回はそんなデモテープの曲たちをハワイでレコーディング 「Loco Island」にまつわるエピソードを。
プロフィール
二名敦子 にいな・あつこ|1959年大阪府生まれ。1979年に早川英梨名義で、シングル「誘われて夏」や、アルバム「CITY」をリリース。1983年にアーティスト名を二名敦子にし、アルバム「PLAY ROOM~戯れ」でテイチクからデビュー。代表曲に「オレンジバスケット」、アルバム『LOCO ISLAND』など。夏のリゾートを思わせる曲が多く、パブロクルーズや、ヘンリーカポノなど海外の有名サーフロックミュージシャンとの曲作りにも積極的だった。1986年に引退したが、2011年に復帰。ライブ活動を行う。 text: Atsuko Nina, edit: Toromatsu
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