アロコスの地下には一酸化炭素が滞留している? 非常に原始的な天体の証明
太陽系の外側にある「太陽系外縁天体」 (※1)は、形成時に取り込んだ揮発性物質(低温でも蒸発しやすい成分)を現在でも保持しているのではないかと考えられています。しかし、揮発性物質がどのような形で保持されているのか、あるいはどのようにして徐々に失われているのか、その詳細はこれまでよく分かっていませんでした。 今日の宇宙画像 ブラウン大学のSamuel P. D. Birch氏とSETI協会のOrkan M. Umurhan氏の研究チームは、NASA(アメリカ航空宇宙局)の冥王星探査機「ニュー・ホライズンズ」が接近探査を行った486958番小惑星「アロコス」の観測データを元に、内部構造をモデル化した研究を行いました。その結果、アロコスのような小さな天体では地下の奥深くで気化した一酸化炭素が滞留し、それ以上の揮発が抑えられている可能性があることが判明しました。これは、アロコスのような天体は非常に原始的であり、失われやすい物質を保持し続けている可能性を示しています。(※2)(※3)
■最も原始的な天体は太陽系の外側にある
太陽とその周囲の天体は今から約46億年前に誕生したと言われています。地球のように活動の激しい天体は誕生から様々な変質の過程があり、元の情報はほぼ残されていません。対して、小惑星や彗星のような小さな天体は、数十億年に渡ってほとんど変質を受けていないと推定されています。それでも、試料の採取に成功した小惑星「イトカワ」や「リュウグウ」の物質を分析すると、いくらかの変質の痕跡が見つかります。 では、イトカワやリュウグウよりもさらに変質を受けていない、原始的な天体はあるのでしょうか?例えば、海王星よりも太陽から遠い場所を公転する「太陽系外縁天体」は有力な候補です。太陽系外縁天体は誕生時から現代にいたるまで太陽から非常に離れた場所を公転していたため、熱などの重大な変質を経験していないと見られています。 太陽系外縁天体の一部は、稀に公転軌道が大きく変化して太陽の近くを通過する場合があります。すると、揮発性物質が蒸発して一時的な大気や尾が形成されます。これが「彗星」と呼ばれる天体です。彗星は詳細な研究が可能ですが、太陽の近くに長期間いた結果、ある程度の揮発性物質を放出していて原始的な物質は失われていると推定されています。 彗星が真の意味で原始的ではないと推定される根拠の1つは、放出される一酸化炭素の量です。より原始的な天体には固体成分の主成分として一酸化炭素が大量にあるため、このような天体が彗星となった場合は蒸発して生じる大気にも二酸化炭素を上回る量の一酸化炭素が含まれると考えられます。一方で、一酸化炭素は二酸化炭素と比較して蒸発しやすく、かなり早い段階で蒸発しきってしまうと考えられています。 実際、観測された彗星の大気に含まれる一酸化炭素の量は、二酸化炭素と比べると極めて少ない量しかありません。わずかな一酸化炭素は、蒸発しにくい氷の微細な隙間に含まれているものが少しずつ湧き出していると推定されています。