アロコスの地下には一酸化炭素が滞留している? 非常に原始的な天体の証明
■「アロコス」の一酸化炭素は予測とは裏腹に検出されず
もしも太陽系外縁天体が非常に原始的な天体である場合、そこには固体の一酸化炭素が大量に保持されていると考えられます。一酸化炭素はその大部分が保持されつつも、数十億年かけて少しずつ蒸発します。このため、太陽系外縁天体からはわずかながらも観測可能な一酸化炭素の大気や、その流出が観測されるはずです。 太陽系外縁天体は文字通り太陽系外縁部にあるため、このような観測はこれまでできませんでした。今のところ、唯一の観測記録となっているのはNASAの冥王星探査機「ニュー・ホライズンズ」による小惑星「アロコス」の接近観測です。ニュー・ホライズンズは2015年に史上初となる冥王星への接近探査を終えた後、2019年1月1日にアロコスへの接近探査を行いました。 アロコスはその小ささなどから、形成後にほとんど変質を受けていない、まさに原始的な太陽系外縁天体であると推定されています。このため、ニュー・ホライズンズの接近探査という貴重な観測機会に、アロコスから流出する一酸化炭素の検出が期待されていました。しかし、実際にはアロコスの観測データからは一酸化炭素が見つからないという、予想外の発見となりました。 この結果を単純に適用すると、実はアロコスは全く原始的ではなく、大きく変質した天体なのかもしれません。しかし、アロコスの物理的な外観や表面の観測結果、公転軌道などは、アロコスが今と同じ軌道を長期間維持していて、ほぼなにも変化していない可能性が高いことを示しています。
■アロコスで検出できなかったことが原始性の証明になるモデルを構築
Birch氏とUmurhan氏の研究チームは、アロコスのような小さな太陽系外縁天体の内部構造をモデル化し、一酸化炭素が検出されなかった理由を調査しました。このような小さな天体は、小さな岩石の粒が緩く結合してスポンジのような隙間の多い多孔質構造を形成していると考えられています。両氏は一酸化炭素の固体を含む多孔質構造の天体の中で、蒸発して気体となった一酸化炭素の挙動の解析を行いました。 その結果、表面に近い部分からは一酸化炭素が逃げ出す一方で、地下深くでは多孔質構造の隙間に徐々に溜まり、宇宙空間へ逃げ出す量はあまり多くないことが分かりました。まるで、天体の内部で “地下大気” が形成されているかのようです。このような場所では、一酸化炭素がこれ以上気化することが抑えられます。そして、変化に乏しい地下深くの一酸化炭素は、滅多なことでは宇宙空間へと逃げ出すことはありません。 このモデルを見る限りでは、誕生から十分に時間が経過したアロコスは表面に近い部分で一酸化炭素が枯渇した一方、地下深くの一酸化炭素は滞留して逃げ出さないことになります。ニュー・ホライズンズの接近観測でアロコスの一酸化炭素を検出できなかったのは、これが理由である可能性があります。その場合、アロコスは本当に原始的な天体であり、一酸化炭素に限らず形成当時の揮発性物質が大量に保存されている可能性もあります。 今回のモデルが妥当かどうかを検証するためには、アロコスと似たような性質を持つ天体を複数観測する必要があります。近年打ち上げられた「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」は、遠く離れた天体に探査機を送り込まずとも、太陽系外縁天体の一酸化炭素や二酸化炭素の流出を観測できる性能があります。アロコスのような天体が本当に原始的かどうかは、案外すぐに判明するかもしれません。