【オートバイエッセイRider's Story】灯台よ、いくべき道を照らしておくれ 第2回 掛塚灯台(静岡県磐田市)
バイク乗りは陸地の先端が好きだ。岬や半島、最北端や最南端。何があるわけでもない単なる陸地の先端へと、ライダーは今日もバイクを走らせる。そんな岬の先に必ずあるのが灯台だ。バイク小説家がバイクで巡るロマンと哀愁ただよう書き下ろしエッセイ、灯台シリーズ第2回、静岡県磐田市《掛塚灯台》。 【画像】掛塚灯台をギャラリーで見る(6枚) 文/Webikeプラス 武田宗徳
灯台よ、いくべき道を照らしておくれ 第2回掛塚灯台
────────── すがる思い ────────── 地図を見ていて、不自然な場所に立つ灯台だな、と思った。静岡県磐田市の天竜川河口にある「掛塚灯台」のことである。掛塚灯台の立つ場所は、遠州灘の中央付近だ。灯台は岬や半島などの先端にあるものと思っていたけど、これは違う。 天候や時間や気分のタイミングが合えば、行ってみようと考えていた。 誰だって悩みの一つや二つは抱えている。小さかろうが大きかろうが、何かの悩みを抱えているはずだ。「悩みなんてないよ」と言う人でも、たぶんある。だいたい、悩みが小さいか大きいかなんて、他人の尺度で測れるものではない。悩みの深刻度は、たとえまわりから見て大したことがなくても、本人にとって深刻ならば、それは大きな悩みになる。 悩んでいた。大した悩みではない、と思う。 僕は、深夜に目が覚めて寝付けなくなり、早朝のまだ辺りが暗いうちからバイクに乗って自宅を出た。この日はいろんなタイミングがうまくかみ合った。 今日は晴天だけど、明日から一週間雨降りの予報だった。僕は掛塚灯台を目指していた。 国道1号バイパスをほどよいペースで走っていた。天竜川手前のインターで降りて南へ下った。道中を楽しむようなルートではない。高速道路を使わない最短ルートだ。 この日は午前中から仕事が入っていた。その前に掛塚灯台を見るだけでも、できればよかった。 掛塚灯台が、僕のちっぽけな悩みの答えを、もしくは解決のヒントを教えてくれるかもしれない。そんなすがるような思いもあった。 掛塚灯台の由来は1880年、明治13年に遡る。天竜川河口付近は浅瀬であり、多くの船が難破していたという。それに心を痛めた旧幕臣の新井伸敬が私財を投じて建設した私設灯台が、今の掛塚灯台の前身にあたる。 つまり、このあたりに近づいてはならぬ、ということを船に伝えるための灯台なのだ。 竜洋海洋公園オートキャンプ場まで来た。遠くに灯台が見えていた。だけどどうやって近くまで行けるのだろう。掛塚灯台は防潮堤に立っているのだが、今は工事中で入れない。掛塚灯台とキャンプ場の間は、川と小さな湖でさえぎられている。地図を見ると、ここから反対側の天竜川の河口の方から防潮堤に沿って行けそうだ。僕は再びSV650Xにまたがって走り出した。 ────────── 明治時代建造の現役稼働灯台 ────────── 防潮堤沿いの道路を走って掛塚灯台の近くまで行くことができた。 味わいのある灯台だ。絵本に登場しそうなレトロな佇まいだ。それもそのはず、今の掛塚灯台は1897年、明治30年に国がつくった当時の形そのまま残っている灯台。移設はされているものの、現役で稼働している明治の灯台なのだ。国内に約4700基あるうちで、現役の明治灯台は約60基というから、どのくらい貴重なのかこの数字を見ればわかる。 防潮堤の工事で、灯台のすぐ下や裏側へは行けなかった。工事関係車両が少しずつ入ってきていた。じっくり見ていられる雰囲気ではなかったので、僕はそこに数分いただけで、掛塚灯台を後にした。 短い時間の中で慌てて帰ってきてしまった感じがする。防潮堤の工事で慌ただしい雰囲気はあったものの、どちらにせよ灯台のすぐそばまで行けないのだから、もう少しじっくり見ておけばよかった。あの灯台から海の方を見るとどんな景色が広がっていたのかも思い出せない。灯台ばかりを見ていて、海の方を見ていなかったのかもしれない。 ────────── 灯台の声 ────────── ー近づいてはならぬー 灯台の声が頭をよぎった。 近づいてはいけなかった? 今は工事中だから? 実際すぐそばまでは近づけなかった。 近づくにはまだ早いということ……? それとも、俺を頼りにするなよ、という意味なのか? 自分で解決しろ、と。 あのとき僕は、気が急いていた。落ち着いて灯台を見ていなかった。近くまで行けなかったのもあるけど、灯台を十分に感じられていなかった。しっかり受け止められていなかった。 でも今、こうやって落ち着いて考えが働くようになったら、自分のちっぽけな悩みについて答えがでた。いや、はじめから答えは出ていたのかもしれない。最後に誰かの同意の声が聞けたら、それでよかった。もし否定されても、自分の決断は変わらなかっただろう。 最後に信じられるのは、自分自身だけ。結局、最終判断は自分がするしかないのだから。 わかったよ、自分で解決するよ。 ありがとう、掛塚灯台。 <おわり>
武田宗徳
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